ONODA 一万夜を越えて (2021):映画短評
ONODA 一万夜を越えて (2021)ライター2人の平均評価: 5
粛々と任務をこなす「小さな」営為が「大きな」破格の冒険となる
オール日本人キャストにスタッフは仏中心――「合作」の負のイメージを完全払拭する密度の高いできばえに驚嘆&拍手! カンヌ出品から大島渚『戦メリ』、フィリピン戦線(撮影はカンボジア)の地獄から塚本晋也『野火』を連想しつつ、若松孝二『実録・連合赤軍』の作品組成が一番近いかもしれない。
最後の日本兵、小野田寛郎。「命令」により生きる為の「物語」を与えられ、その大きさに守られる形で律儀に遂行する日本人の特異性。目の前の日常のサバイバルを丁寧に描きつつ、役者陣の真摯なバトンタッチで30年間の推移も迫真性が保たれる。『汚れたダイヤモンド』でデビューした新鋭アルチュール・アラリ監督の飛躍もしっかり刻まれた。
サバイバル以上に衝撃的な人間の本能、そして神がかりな演技
上映時間は約3時間。しかしこの長さだからこそ、主人公・小野田寛郎がフィリピンのジャングルで過ごした30年近い歳月を体感できる。
戦時の悲惨な状況の描写は、この種の映画では平均的レベルだが、唐突な衝撃シーンも多く、いつしか固唾を呑んで画面を見つめていた。やがて終戦の事実や上官の命令とは別に、なぜこの人がジャングルでの生死ギリギリの日々を抜け出そうとしなかったのか、その理由が静かに突きつけられてくる。人間の本能に、ただただ驚くのみ。
年齢を経ての小野田役のチェンジはナチュラル。そして終盤では、何人かが、これが日本映画の枠なら主演賞・助演賞にふさわしい渾身演技のラッシュをみせ、感動の大きな渦を作る。