偽りの隣人 ある諜報員の告白 (2020):映画短評
偽りの隣人 ある諜報員の告白 (2020)ライター3人の平均評価: 3.3
愛国心を声高に叫ぶ者を信用してはいけない
軍事独裁政権末期の韓国。田舎に左遷された下っ端の諜報員デグォンは、民主化運動のリーダーである野党総裁の自宅を盗聴・監視する任務に就くものの、それは総裁を共産主義者に仕立て陥れるための策略だった。単細胞な熱烈愛国者デグォンはまさにネトウヨそのもの(笑)。そんな彼が、邪悪な共産主義者だと信じ込まされていた総裁の高潔な人柄に少しずつ感情移入し、やがて自分が権力者の私利私欲に利用されていたことに気付く。ユーモアとサスペンスの絶妙なさじ加減もさることながら、ヒューマニズムを訴える感動的なストーリーテリングは韓国映画の真骨頂!決して愛国心を声高に叫ぶ者を信用しちゃいけない。
韓国映画の傾向を、強く実感させる作風
日本でも名前は有名な元大統領、金大中氏をモデルに、民主化を求める政治家が自宅軟禁。主人公は隣で盗聴するというシビアな設定……なのに、なぜか「ドリフのコントか!?」とツッコミを入れたくなるふざけた描写、ご近所同士のほのぼのドラマも挟み込まれる。たしかに観ていて違和感はあるのだけれど、韓国の社会派・歴史暗部モノの「多様化」を実感できる作風。
もちろん肝心の見せ場では、緊迫のテンション、過激なアクションも駆使されるし、予想どおりとはいえ感動も提供。「いいものを観た」という後味はもたらされるだろう。政治家役、オ・ダルスの演技は人間味に溢れ、国のトップにはこういう人物がふさわしいと親しみが持てる。
韓国の民主化まで、こんなことがあったかも!?
韓国の民主化への道のりを描き、危険視される政治家ウィシクのモデルも検討はつくが、実話ものではない。だからこそウィシクと彼を盗聴するチーム長デグォンらの人格を自由に膨らませることが可能になり、血肉が通ったキャラクターが生まれている。抜擢に張り切るデグォンを筆頭に国家へ盲目的な忠誠を誓った男たちの言動が滑稽だ。濡れ衣を着せる書類を仕込むのに四苦八苦し、ヒット曲を暗号と勘違い。シリアスな題材にユーモアを交え、人情味あふれるドラマに仕上げたイ・ファンギョン監督の手腕は確かだ。抜群のタイミングで笑いを誘うオ・ダルスが相変わらずの演技巧者ぶりを披露。熱血漢が似合うチョン・ウとの相性も素晴らしい。