フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 (2021):映画短評
フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 (2021)ライター3人の平均評価: 3.7
映画作家の「テイスト」それ自体が「アート」に結実した印象
映画作家として、ここまでその志向を確立したという点で他に類をみない域に入ったW・アンダーソン。特に『グランド・ブダペスト・ホテル』の魅力に溺れた人に本作は最高の時間になるはず。色づかいもポップすぎず、モノクロとカラーの切り替えの巧みさ、左右対称のこだわり、動物の使い方、もちろん美術は細部まで念入りに…と、ワンシーン、ワンシーン、アートを鑑賞してる感覚は監督の作品でも屈指レベル。今回は雑誌の最終号という設定のためか、映画を観てるというより、一流おしゃれ雑誌をパラパラめくってる味わいだ。
ただ個人的には彼の作品、キツネや犬たちのアニメの方が物語に没入し、感情移入しやすいという事実を改めて納得。
モノクロやアニメへの切り替わりも絶妙な“体感する雑誌”
1本のハードボイルドなレポートと、3本の予測不能なストーリーがオムニバス形式で綴られる“体感する雑誌”。アート・青春・サスペンス&グルメと、多様なジャンルを扱いながら、どれもウェス・アンダーソン監督しか撮れないウェルメイド感満載。もちろん、相変わらずトゥーマッチな情報量ゆえに、そのトリップ感は半端なく、画角だけでなく、モノクロやアニメへの切り替わりも絶妙だ。いきなり急死するビル・マーレイや完璧すぎる裸体を披露するレア・セドゥといったウェス組常連はもちろんのこと、おヒゲ姿もキュートなティモシー・シャラメやべ二チオ・デル・トロら初参加組が、かなりのインパクトを残している。
ウェス・アンダーソン監督の美学、さらに極まる
ウェス・アンダーソン監督の美学が、これまでの作品にも増して極まっている。"雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の掲載記事"という体裁で、この監督好みの物語が複数並列的に配置されて、美学が増幅。カット数が多く、大多数は短く静止画のようなカットもあり、そのカットのすべてが、色彩、構図、造形、動きさえも一つの美学で完璧に統一されているので、美学が連打されて極まり、画面の中を動く猫までが、アンダーソン監督の指示通りの速度で歩いているかのように見えてくる。登場人物の設定も、監督お気に入りの「ニューヨーカー」誌の編集者らがモデルとのことで、同じ美学で統一。思想ではなく美学によって創造された世界が魅了する。