スペンサー ダイアナの決意 (2021):映画短評
スペンサー ダイアナの決意 (2021)ライター3人の平均評価: 3.3
作り手の憶測によるダイアナ妃の3日間
「実際の悲劇にもとづく寓話」と最初に断りがあるとおり、これは作り手によるダイアナ妃の解釈。クリスマスの3日間という外から見られない状況が舞台で、ストーリーは完全に憶測だ。ビジュアルは美しい。衣装、セットは見事で、「燃ゆる女の肖像」の撮影監督クレア・マトンは、まさにおとぎ話のようなムードを作り上げている。孤立したダイアナ妃の悪夢、妄想なども出てきて、途中、ホラー的な雰囲気にも。ただ、アン・ブーリンへの異様な執着は個人的にあまり信憑性を感じないし、それ以前にここで描かれるダイアナ妃はただかわいそうな被害者で、いまひとつ奥行きに欠けるように思う。クリステン・スチュワートの頑張りは評価。
静かで端正な映像で魅了する
主人公の心情が、そこにある風景として描かれる。秋なのに枯葉が落ちていない木立。道の上の鳥の死骸。左右対象の幾何学模様のような館の前庭。彼女の視点で描かれる光景は、彼女が自分や王室というものをどのように捉えているのかをそのまま映し出す。撮影は、セリーヌ・シアマ監督と『燃ゆる女の肖像』『秘密の森の、その向こう』で組んだクレア・マトン。いつものように静かで端正な映像で魅了する。
一方で、王室内部の人物が彼女に語る言葉もあり、物語は単純な王室批判にはなっていない。驚異的なのは、主演のクリステン・スチュワート。他の出演作とはまったく別の顔で、女優としての力を見せつける。
そっくりと違う別次元の名演。フィクションと思えなくなっていく
冒頭でFable=寓話と宣言され、基本はフィクション。しかし夫のチャールズとの不和状態で、義母=エリザベス女王の私邸で過ごす針のむしろの時間は「きっとこんなだったろう」と信憑性に満ちみちている。
自傷癖や拒食&過食というセンセーショナルさも目につくが、ダイアナの感情が直接的に迫ってくるシーンは少なめ。揺らぐカーテンのように不確かで、こちらの想像に委ねられる部分多し。
全方向シャワーや豪華メニューなど王族屋敷の日常、ダイアナおなじみのファッションが登場する意外なシークエンスなど要所に見どころを配し、クリステンはダイアナの物真似というより、その深い心情を丁寧につむぎ、だからこその名演技と断言。