我が心の香港~映画監督アン・ホイ (2020):映画短評
我が心の香港~映画監督アン・ホイ (2020)ライター3人の平均評価: 3.7
同時期公開のプロデュース作『花椒の味』もぜひ併せて
アン・ホイ監督の人生とキャリアを振り返る好作。『アニエスによるヴァルダ』(19年)に近い印象を受けるのは、香港ニューウェイヴと台湾ニューシネマの距離感が、カイエ派のヌーヴェルヴァーグに対するセーヌ左岸派とどこか重なるからか? そして先駆的な「女性監督」でもある本人のチャーミングな佇まいが微笑ましく際立つ。
例えば『客途秋恨』(90年)が示すように香港、イギリス、中国、日本を跨ぐ越境性の中で生きてきたアン・ホイだが、彼女は自分たちの世代の香港人の特徴として、地政学的な影響によるアイデンティティーの揺れを挙げる。「東西文化の交差」を強く反映した初期のテレビ作品も紹介されるのが嬉しい。
映画と結ばれたアン・ホイ監督の映画人生に乾杯!
香港ニューウェーブの旗手アン・ホイ監督の人生に焦点を当て、そのキャリアや人となりを明らかにする。まずホウ監督がおおらかで魅力的だ。ツイ・ハークやアンディ・ラウら多くの映画人が彼女の創造性や人柄を語り、彼女自身もさまざまな質問に率直に答える。また撮影現場で切れ、宣伝ツアーの過密スケジュールにイラつく姿も挿入され、気取らない性格なのがよくわかる。アートとエンタメを自由に行き来しながら、業界内の尊敬を勝ち得てきた彼女はまさに唯一無二の存在! 彼女の柔軟な姿勢は香港人らしさであり、愛する香港が時代に応じて変わっていく姿を撮ることで貢献したいと語る70代のホイ監督のバイタリティに痺れた。
香港映画人がもっとも愛する監督の素顔
これまで6度も香港アカデミー賞監督賞を受賞していることから、香港映画人にもっとも愛されている監督といえるアン・ホイ。“香港庶民が抱える諸問題”をテーマに、ジャンルを問わず約30本の映画を手掛けてきた彼女だが、複雑な生い立ちや香港ニューウェーブ時代、過去の恋バナや脚本を手掛けないこだわりまでが、香港を愛する気のいいおばちゃんな素顔を通して語られていく。出番が短いながらも、一気にかっさらうアンディ・ラウらのインタビューも見どころ。ただ、撮影現場から宣伝活動まで、撮影クルーが密着する当時の新作『明月幾時有』が日本では劇場は疎か、映画祭でも上映されていないのは悔やまれる。