マイ・ニューヨーク・ダイアリー (2020):映画短評
マイ・ニューヨーク・ダイアリー (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
電話の向こうの隠遁天使
サリンジャーマニアのファナティックな男子、ではなく、そこから距離を置いた若い女性の自己実現物語という面白さ。S・ウィーバー扮する上司との関係など『プラダを着た悪魔』を色々連想させるが、こちらは文芸畑のせいかキャリア志向の厳しさは余りない。ベテラン上司も迫り来るIT時代に戸惑っており、編集部にはファックス音が鳴り響く「95年の光景」が懐かしい。
原作者ジョアンナ・ラコフは72年生で、出版業界の過渡期のレポートにもなっている。サリンジャーが没した2010年以降、『ライ麦畑で出会ったら』や『ライ麦畑の反逆児』など彼の伝説をモチーフにした作品が登場しているが、今作ほど健全さに貫かれた例は初めてかも。
90年代のNYとマーガレット・クアリーが魅力
舞台はニューヨーク、主人公は新入り女性で直属の女性上司はちょっと威圧的という設定は、嫌でも「プラダを着た悪魔」を思い出させる。しかし、回顧録にもとづく今作は、主人公ジョアンナの職場と私生活でのエピソードがばらばらと綴られていく感じで、まとまりがない。事実のとおりなのだろうが、「普通の人生では満足できない」「自分はライターになるんだ」と大っぴらに宣言するわりに、ジョアンナは物を書くこともせず、応援してあげたいという気持ちにもなりづらい。そこを補うのが純真さあふれるマーガレット・クアリーの魅力。90年代のニューヨークの雰囲気もロマンチックさをプラスする。