スイート・マイホーム (2023)：映画短評

多分に反語的なタイトルは、いわゆる「家ものホラー」の一種ということもできるが、そこに心霊的な恐怖はない。窪田正孝が絶妙な受け技を見せるものの、物語は徹底して女性たちの心理的トラウマを追っていくのだ(そこに『ヘレディタリー／継承』や『回転』等の影響も隠さない)。これがおそらくメジャー長編初めての監督作となる齊藤工だが、彼ならではのキャスト陣の絶妙さだけでなく、中川信夫の『東海道四谷怪談』じみた、おどろおどろしくもシュルレアルな照明等(原色の青赤緑！)、シネフィル的に様式的な日本的怪談噺の様相を呈するのも面白いところ。撮影の芦沢明子はじめベテラン勢のスタッフ陣の力量も存分に伺えるところだ。

　平凡な家族が念願のマイホームを手に入れたところ、その家には彼ら以外の‟何か“が潜んでいた…！というわけで、いわゆる事故物件的な心霊ホラーかと思いきや、なるほど、元祖スラッシャー映画と呼ばれる某カナダ映画と似たオチですな。正直なところ、かなり早い段階で犯人像もカラクリも目星がついてしまうことは否めない。ただ、恐らく本作のストーリーはそこが核心ではなく、「理想の家族」や「理想のマイホーム」といった最大公約数的な固定概念の持つ危うさであり、これはその呪縛によって歪められた人間心理に迫るサイコサスペンスと言えよう。純然たるホラーを期待すると肩透かしかもしれないが、奇を衒わぬ演出は好感が持てる。

齊藤工名義の監督最新作。監督に専任した本作は実験的な部分もあるもののエンタメとして楽しめるサスペンススリラーとして仕上がっていて、堪能しました。
窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、そして窪塚洋介が巧くはまっていて映画に説得力を与えていました。何より、タイトルでもある住宅が、理想の最高の家にも、秘密を抱えた恐怖の家にも見えてくる、映し分けが大変巧みでした。クライマックスの二重三重の畳み掛けも見事でした。齊藤工監督としてはエンタメ演出の巧さを証明した一本と言えるので今後の映画監督・齊藤工が楽しみです。