夜を走る (2021):映画短評
夜を走る (2021)ライター2人の平均評価: 5
映画的に引き込み、観る者の一歩先を進もうとする野望に満ちる
何かしら衝撃事件が起こりそうな「気配」だけが漂う。そんな静かな導入部から引き込むうえで、この作品は細部までセリフにリアリティが宿っていて完璧。主人公たちの半径5m以内で描かれそうな閉塞的ドラマも、広いスクラップ工場を背景にしたことで、異様な空間の怖さ、重機の音、火花などで妙なスケール感を醸し出す。絵作りも映画的。
中盤から思わぬギアチェンジもあり、観る人によって展開・描写についていけない可能性もあるし、齟齬も生じるだろうが、エンディングでの想像力で映画のパワーは一気に回復する。その先に見える、人生の意味とは…。
コロナ禍世界へのさりげない目配せ、短いシーンだが松重豊の怪物的演技に恐れ入る。
地獄で笑え、踊れ、そして飛べ!
何故にこんな凄い映画が日本から爆誕してしまったのか? 『まだ楽園』『ランニング・オン・エンプティ』からの走行の延長に、『教誨師』の思考の密度が交錯した……というだけでは説明がつかない。ただ我々はおとなしく生きているだけなのに、コロナ禍は来る、戦争も起こる。無力な個人はどうすりゃいいのよ。かくして監督・佐向大は世界にブチ切れた。変態扱いされてもアクセル限界以上まで踏み切った!
郊外のスクラップ工場に務める二人の男の、よりダメっぽいほうが異次元&高次元のバスター・キートンとなる。あらゆるコードを跳び超えて大暴れ。徹底的に予定調和を拒否する闘いのドタバタ狂喜劇。何でもいいから陽気に生きろ。必見!