バニシング:未解決事件 (2021):映画短評
バニシング:未解決事件 (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
フレンチ・ノワールと韓流ノワールのいいとこ取り
ソウル近郊で発見された身元不明の腐乱死体。捜査を担当する若き刑事ユ・ヨンソクは、たまたま来韓していた世界的な法医学者オルガ・キュリレンコに協力を依頼。やがて、中国からの出稼ぎ労働者を狙った臓器売買組織の存在が浮かび上がる。フランスのドゥニ・デルクール監督が『殺人の追憶』や『チェイサー』にインスパイアされた作品。まさしくフレンチ・ノワール×韓流ノワールといった感じで、全編に漂う禍々しくも不穏な空気が緊張感を持続する。バイオレンスよりもムードを重視した渋いタッチはフランス人監督ならではか。繫栄する韓国社会の暗い闇に光を当てる脚本も悪くない。いまひとつ盛り上がりに欠けるラストだけが惜しまれる。
ソウルの路上感がスリルをあおる高濃度サスペンス
スリルの濃度が高い88分のサスペンスで、一気に見てしまった。
ソウルロケの効果は絶大で、ストリートや中華街の猥雑な空気がリアル。監督が『チェイサー』を参考にしたという地下室の描き方も緊張感を盛り立てるうえで機能している。
心臓をめぐる話への展開は唐突だが、そこからドラマの速度が上がり、俄然目が離せなくなる。異邦人の命よりも金……という冷酷な拝金主義の現実を描きつつ、それに立ち向かうキャラの人間味が伝わるのがいい。マジックの得意な刑事にふんしたユ・ヨンソクも、過去を抱える医学博士にふんしたキュリレンコも、それぞれに味がある。