スワンソング (2021):映画短評
スワンソング (2021)ライター3人の平均評価: 4.3
老境にさしかかったゲイを通して人生の意味を問う傑作
年老いたゲイの元美容師が、かつて喧嘩別れした親友(「ダイナスティ」のリンダ・エヴァンス!)の死化粧を担当するため、今は亡き最愛のパートナーと過ごした田舎町へと舞い戻る。ストーンウォールの叛乱からエイズ・パニックへと至る激動の時代を生き抜いた主人公。しかし当時は同性婚などなかったため、彼との思い出の詰まった家も何もかもが奪い去られ、様変わりした町には2人が生きた痕跡すら殆ど残されていない。ゲイの老後を題材にしつつ、「人生の意味」という普遍的なテーマを描いた傑作。誇り高き主人公を演じるウド・キアーも素晴らしいし、ジュディ・ガーランドやダスティ・スプリングフィールドなどゲイ好みの選曲も最高!
俳優その人の素顔も重なったとき、演技はミラクルとなる
「人生最後の仕事」と人はどう向き合うのか。そんなヒューマンなテーマが貫かれ、しんみり感動を誘う予感を漂わせつつ、思い出とともに主人公がゴージャスな“現役”時代を取り戻すプロセスに、文字どおり観る人を元気にさせるパワーがみなぎる。そこが本作の魅力。切なく悲しいエピソード、あるいは現実とのシビアな直面も、監督がポジティヴに描こうとする姿勢が心地よい。
そして何より、世界中の映画で名演・怪演を披露してきたウド・キアー。やたら安易に使われる「存在感」という言葉、この作品の彼のためにある。もう一度やる気を取り戻す心情変化はもちろん、目線や指先の細かい表現まで「そこに生きている」という至高の演技が随所に。
失われていくコミュニティへの思い
トッド・スティーブンスの自伝的映画「Edge of Seventeen」を米国公開時に劇場で見たので、とりわけぐっとくる。今作の主人公ミスター・パットのモデルは、高校生だったスティーヴンスにゲイコミュニティの魅力を教えてくれた人物。同じ街が舞台で、フィルムメーカーとして成長したスティーヴンスが一周して戻ってきた感じ。ミスター・パットと同世代の人たちの多くはAIDSで死んでしまった。そんな彼が昔よりずっとオープンになった世の中を見て「もうどうやってゲイをやればいいかわからない」と言うのも興味深い。失われていくコミュニティへの思い、愛、友情、孤独などの感情をユーモアを含めて語る、美しい1本。