ホワイト・ノイズ (2022):映画短評
ホワイト・ノイズ (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
壮大でツイストの効きまくった“余命もの”
ポストモダン文学の代表的作家ドン・デリーロが85年に発表した代表作を『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバック監督が映画化。有毒化学物質による汚染事故がトリガーになって、死の恐怖に取り憑かれてしまった大学教授とその妻、家族を描く。大量消費社会と漠然とした不安、カリスマと大衆の熱狂、メディアと陰謀論、不条理な惨事と正常性バイアス、謎の薬物と拳銃などが画面を行き来する中、壊れかかった夫婦の愛と信頼の回復へと物語は収斂していく。壮大でツイストの効きまくった“余命もの”でもある。LCDサウンドシステムの曲に合わせて極彩色のスーパーマーケットの中で人々がゆるく踊り続けるエンディングが秀逸。
あっという間に出現する非常事態がリアルに怖い
遠くに見える煙でしかなかったものが、見る見るうちに拡大し、家族全員で避難しなくてはならない非常事態になる。情報は大量に飛び交うが、どれを信じていいか分からない。そんな状況の中で、もっとも身近な存在であるはずの人物が、驚愕的な状況に陥っていたことを知る。そして"死"が、常にそこにあるために存在を意識しなくなるホワイト・ノイズのように、いつもすぐそこにあることを体で実感する。ドン・デリーロによる同名原作小説が刊行されたのは1985年だが、現在の状況を描いているようにしか見えない。カラフルな商品で満ち溢れる巨大スーパーマーケットで、人々は踊らされるしかないが、足元はゾンビのように頼りない。