Winny (2023):映画短評
Winny (2023)ライター3人の平均評価: 4.3
この反骨精神こそ社会派実録映画の醍醐味!
恥ずかしながら「Winny事件」についておぼろげな記憶しかなかったのだが、だからこそ新鮮な驚きと衝撃をもって鑑賞することが出来た。著作物違法コピーの温床となったファイル共有ソフト「Winny」だが、なぜ悪質な利用者だけでなく開発者までも摘発されてしまったのか。その背景に浮かび上がるのは、出る杭は打たれる日本社会独特の風土に加え、国家権力の隠蔽体質や全体主義的な傾向、長いものに巻かれる国民性や強者に忖度するメディアなど、まさに今の日本を取り巻く閉塞感や絶望感の元凶とも言える悪しき慣習の数々だ。昨今の日本映画では珍しい反骨精神の溢れる力作。役柄が憑依したような東出昌大の力演もアッパレだ。
並行する2つの事件が交わる瞬間
Winny開発者の逮捕劇と現役巡査部長による内部告発という、2つの事件が並行し、やがて交じり合う衝撃。相変わらず、味がある東出昌大に、最初は気づかないほどの役作りで挑んだ三浦貴大のタッグがヤバく、未来の研究者のために諦めなかった男の7年間を描写。Winnyを違法ソフトと勘違いしていた人ほど観るべき一本といえる。また、法廷劇としての完成度の高さに加え、骨太ながらときにユーモアを交えた作風から目が離せない。これまで小手先だけの印象が強かった松本優作監督だが、商業デビュー作『ぜんぶ、ボクのせい』に続く、本作で大化けした感もあり、藤井道人監督に続く、社会派エンタメの旗手になる予感も!
静かに漂う未来への不安。役と俳優が不覚にも重なる映画の怖さも
その是非はともかく、ソフトウェア開発における唯一無二の才能の未来が閉ざされた。作品全体にそんな無力感が、あからさまでなく静かに漂い、観ながら心が千々に乱れる。同時進行する警察の裏金事件との接点も“さりげなく”描き、その分、日本社会の「暗澹たる未来」を想像させる作りが逆に怖い。
まだスターになる前、東出を取材した時のピュアで能天気なムードがこの役で復活し、見事に合っていたという印象。そして観ながら現在の彼の状況と、役の運命を重ねずにはいられない。
裁判シーンの吸引力は超一級。
もっとスキャンダラスに描く手もあったろうが、題材が題材なだけに誠実で真摯なアプローチ。そこが少し物足りないとも言えるが。