The Son/息子 (2022):映画短評
The Son/息子 (2022)ライター3人の平均評価: 3
「ファーザー」より重く、暗い家族の肖像
認知症をテーマにした「ファーザー」で高く評価されたフロリアン・ゼレール監督がこの新作で扱うのは、メンタルヘルス。その苦しみを抱えるのが両親の離婚で心が傷ついたティーンの男の子とあって、トーンは前作よりずっと重く、暗い。「ファーザー」が認知症を内側から見つめたのに対し、今作は距離を置いたところから語る。アプローチの違いなのだが、そのせいで少年の心に寄り添えず、ひたすらやるせなさを感じてしまう。一方で、映画は、その少年と父だけでなく、父とその父の関係も平行して描き、お互いを重ねてもいく。そんな見せ場たっぷりの役に、ヒュー・ジャックマンが全力で挑んでいる。
静謐な映像で描かれる親子関係の難しさ
アンソニー・ホプキンス主演『ファーザー』でアカデミー主演男優賞と脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール監督による「家族」をテーマにした第2弾。今回は“息子”にスポットをあてて、親子の人間関係の難しさ、やるせなさを静謐な映像で描き出す。ヒュー・ジャックマン演じる主人公は思春期の息子を愛していて、息子は父親を尊敬しているのに、ふたりの気持ちはお互いに届かずぶつかり合う。そこに至るまでの複雑な事情があるとはいえ、どんな親子にもこのような事態は訪れる可能性がある。父親が“理想の息子”を思うとき、いつも幼かった頃の姿なのがつらい。子どもはいつだって今がベスト。そのことを心にとどめておきたい。
親であること、子であること、自分であること
ヒュー・ジャックマン演じる主人公の、息子との関係、父親との関係を通して、親であること、子であること、それと同時に自分であることの難しさが描かれていく。完璧な親も、完璧な子供も、実際にはいないが、双方がどこかで無意識に理想を求めてしまい、その願望が満たされないことに、自覚せずに不満を抱く。本作ではそれによる深刻な事態が描かれるが、親と子の関係の難しさは、程度の差や方向性の違いこそあれ、誰にでも思いあたる節がある普遍的なテーマだろう。
ジャックマンも熱演だが、ローラ・ダーンが『マリッジ・ストーリー』とはまた別の巧みな演技。彼女が演じる、無自覚なずるさやいやらしさも持つ元妻の人物像がリアル。