死体の人 (2022):映画短評
死体の人 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
全ての夢追い人に幸あれ!
かつてアングラ劇団の座長まで務めたものの、今ではもっぱらドラマの死体役しか回ってこない無名役者が主人公。芝居へのこだわりが強すぎて周囲から煙たがられ、賢く器用に立ち回ることのできない彼が、理想と現実の狭間を迷走していく。たとえ生活が苦しくても夢を諦めることなど出来ない、大好きな芝居以外に生きる術を知らない、もしも人生に妥協なんかすれば心が死んでしまう。そんな愚直なくらい自分に正直な主人公の迷いと葛藤を通して、全ての夢追い人にエールを送る作品と言えよう。シュールなブラック・ユーモアを効かせた演出も好印象。奥野瑛太の愛すべき芝居バカっぷりに加え、母なる大地のような烏丸せつこの存在感にも唸る。
涙と笑いのエキストラ残酷物語
『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督らとのオムニバス『スクラップスクラッパー』では“死ねない男”を描いた草苅勲監督が商業デビュー作に選んだ主人公は、“死んでばかりの男”。それを『SR サイタマノラッパー』のMIGHTYを始め、これまでクセスゴな役の印象が強い奥野瑛太がこれまでになく個性を殺して演じるのが、逆に笑いを誘う。そんな不器用すぎる男のエキストラ残酷物語を軸に、これまた不器用なデリ嬢やマイペースすぎる両親らが絡んだハートウォーミングなエピソードが展開。既視感強めだが、草苅監督の優しい視線が物語を牽引する。ただ、サクセス要素も入れれば、“日本版『新喜劇王』”になったかもしれない。