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せかいのおきく (2023):映画短評

せかいのおきく (2023)

2023年4月28日公開 90分

せかいのおきく
(C) 2023 FANTASIA

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

なかざわひでゆき

社会の最底辺から世界を見つめた異色の時代劇

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 武家の身分から貧困層へ転落した女性おきく、排せつ物を回収して生計を立てる青年・矢亮とその弟分・忠次。階級格差の厳しい江戸時代末期を舞台に、社会の最底辺で辛酸を舐める若者たちの青春模様をモノクロの端正な映像美で描く。いやあ、古今東西これだけ糞尿だらけの映画も珍しいが、しかしこれこそが本作のキモだろう。なにしろ、人間誰しも食べて寝て排泄するのは同じ。なのに、世間では格差や差別が平然とまかり通る。これはそんなクソみたいな江戸社会の現実を、臭いものに蓋をすることなく描きつつ、互いを思いやりながら支え合う若い男女の姿を通して、現代の過酷な日本社会に生きる若者たちへエールを送る映画と言えよう。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

“江戸版『突然炎のごとく』”な青春映画

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

当たり外れがデカい阪本順治監督作でも、これは当たり! 最下層ともいえる下肥買いと貧乏長屋に住む日常を描くという、かなり挑戦的な内容ではあるが、モノクロ・スタンダードサイズで捉えることで、墨絵のような美しさが際立つことに。佐藤浩市ら、阪本組常連のベテラン勢がガッチリ脇を固めるなか 芸達者な若手3人がじつに生き生きと演じており、まさに“江戸版『突然炎のごとく』”な青春映画といった仕上がりだ。劇中に登場する“世界”というワードや、時代に翻弄されつつも健気に生きるヒロインの姿などが共通することから、イラストポスターを『この世界の片隅に』のこうの史代が描き下ろしているのも頷ける。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

伝統的な情景が、かつてあり今あるものに思い至らせる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 セリフには現代の若者たちの言い回しを使いつつ、江戸末期の貧乏長屋という舞台も、スタンダードサイズのモノクロ映像という形式も、昔ながらの日本映画の伝統を引き継ぐもの。柔らかな質感で描かれる、降りしきる雨、濡れる植物などの情景が古典的な美学を感じさせ、日本映画の伝統を痛感させもする。これらの風景がかつてもあり今もあるものだと感じられて、本作で描かれる人情もまた、かつて同様、今もあるのかもしれないと思わせる。ただし「せかい」の認識は別もの。作中の貧しい若者は「せかい」という概念を初めて知って衝撃を受けるが、この概念を知っている私たちは今どんな行動をしているのか。そんなことも考えさせる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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