サイド バイ サイド 隣にいる人 (2023):映画短評
サイド バイ サイド 隣にいる人 (2023)ライター3人の平均評価: 3.3
ヒントは与えられている。物語は自分で探ろう。
日本映画では稀な、人に伝えることをほぼ無視した実験的作品…というか、伊藤ちひろの脚本演出は物語を心地よく進めたり辻褄が合うように語るということを自ら拒否していて、その潔さがいっそのこと清々しい。最初は人の心が見える心霊師のように登場する坂口健太郎だが、いつの間にかそれはどうでもよくなり、過去の彼女との繋がりの話になっていったり。南米文学のマジック・リアリズムに通じる要素も確かにあり、僕などはフリオ・コルタサルを想像させるなあ。しかし画面には艶があり、シンメトリックな構図の多用も効果的。彼女の前作、『ひとりぼっちじゃない』と連結する要素も実はちりばめられていて、それを観客が見出すのも一興かと。
坂口健太郎の柔らかな佇まいと美しさが見る者を癒す
そこにいない誰かの「想い」を目で見ることが出来る青年。その特別な能力を活かして人々の心を癒していた彼が、しかしその能力ゆえに自らが逃れてきた過去と向き合うことになる。透明感のある端正な映像美はとても魅力的で、ファンタジーとリアリズムの曖昧なバランス感覚も洒落たセンスだと思うのだが、しかしストーリーまでもが全体的に「ふわっ」としてしまっている印象。そのため、どうしても映画の核が見えづらく、雰囲気先行という印象は否めない。その一方、いわゆるヒーラー的な役どころの坂口健太郎は確かにハマリ役。そこにいるだけで見る者を癒してくれるような、彼の柔らかな佇まいと美しさを堪能する映画だ。
アピチャッポン監督作に近い肌触り
坂口健太郎と齋藤飛鳥が元恋人役として共演しながら、マジックリアリズムの世界観を描いているだけに、『ひとりぼっちじゃない』に続いて、今度も伊藤ちひろ監督が攻めまくり。坂口演じる浮世離れした主人公は、“生霊が見える”など特殊能力を持っていることでホラー・ファンタジーとも呼べるのだが、これが実験映画と呼べるほどにアート系の極致。物語を語らない静謐かつ叙情的な作風は、日本映画としてはかなり思い切った冒険だが、長野の美しいロケーションも映えまくり。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作に近い肌触りということもあり、「大阪アジアン映画祭」のクロージング作品に選出されたのも納得しかない。