アシスタント (2019):映画短評
アシスタント (2019)ライター3人の平均評価: 4
日本人にとって非常にタイムリーな作品
とある映画会社の1日。プロデューサーを夢見て就職したヒロインは、業界の大物である会長の新米アシスタントとして早朝から深夜までこき使われているのだが、ふとしたことから会長室のドアの向こうで夜な夜な起きている「あること」に気付いてしまう。ハーヴェイ・ワインスタイン事件をモデルにしたことは明白。ただし、本作ではドアの内側でなく外側に問題意識がフォーカスされる。会長が何をしているのか社内では周知の事実。しかし、誰もが会長の逆鱗に触れることを恐れて知らぬふりをし、自分のポジションを守るため口を塞いでいる。果たして、自分がヒロインと同じ立場ならどうするか?こと日本においては非常にタイムリーな映画だ。
どこにでもある問題が、静かに浮かび上がってくる
誰もが、実は加害者である。この映画はそれを描く。あらゆるハラスメントは、直接的な加害者だけでなく、それを知りながら何もしない周囲の人々も、それに対して声をあげたが黙らされた人々も、実は加害者なのではないか。そうした、どこにでもあるハラスメントを取り巻く状況を、あえてドラマチックには描かず、日々の日常的情景の中に静かに浮かび上がらせていく。まだアシスタントの仕事を始めて数ヶ月の主人公を演じるジュリア・ガーナーのひたむきな表情。社員の苦情を受け付ける窓口担当者役のマシュー・マクファディンのもの慣れた口調と、顔を見ずに言われる同情めいた言葉。俳優たちの静かで確かな演技が、物語を支えている。
セクハラを許した社内の様子を淡々とリアルに描く
「17歳の瞳に映る世界」「プロミシング・ヤング・ウーマン」の1年前に北米公開された、もうひとつの優れた「#MeToo」映画。ワインスタインを思わせる大物の映画会社のアシスタントの1日を追いつつ、みんながボスのセクハラを知りながら隠蔽している状況を見せていく。勇気を持って声を上げても「君の代わりは山ほどいる」と脅されるだけ。事実、彼女に与えられた仕事は誰にでもできるような雑用。リスペクトはなく、就業時間は長い。憧れの会社に入れた後の現実はこうなのだ。ドキュメンタリー出身の監督は、多数のアシスタントに取材をした上で脚本を書いたそう。音楽を入れず、冷静かつリアルに描いていくのが余計に胸に迫る。