ヒンターラント (2021):映画短評
ヒンターラント (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
猟奇サスペンスとしても秀逸なドイツ表現主義的反戦映画
敗戦によってハプスブルグ帝国が崩壊した、第一次世界大戦後のオーストリア。首都ウィーンで帰還兵ばかりを狙った残酷な連続殺人事件が発生し、自身も帰還兵である元刑事が捜査に乗り出す。街中に貧困と犯罪が溢れ、人心は荒廃して公権力は腐敗し、庶民の不満と憎悪はユダヤ人や共産主義者に向けられる。そんな荒廃した古都ウィーンを、さながら『カリガリ博士』のごとく歪んだ世界としてCGで描いたのは、ドイツ表現主義の応用として理に適っているだろう。前線で戦った兵士ばかりか、銃後の市民の精神をも蝕んでいく戦争の後遺症。事件の皮肉な真相がその「やるせなさ」をさらに引き立てる。基本は反戦映画だが猟奇サスペンスとしても秀逸。
世界がいつも歪んでいる
地平線は常に平行ではなく傾いている。建造物はみな歪んでいる。暗緑色の光が濃い影を落とす古い都。そんな世界が、あえて実写ではないことを強調する筆致で描かれ、登場人物たちの背後に姿を見せる。監督が全編ブルーバックで撮影し『カリガリ博士』のデジタル版を目指したと語る、『ダークシティ』『シン・シティ』の系譜の魔都ウィーンが、見る者を幻惑する。
そんな街に、極寒のロシアの捕虜収容所から解放されて帰還してきた元刑事が、そこで起きる残虐な連続猟奇殺人事件を追うことになり、次第にその犯人に思い至っていく。主人公の顔が、冒頭とラストシーンでは、まるで別人のように変貌している。