碁盤斬り (2024):映画短評
碁盤斬り (2024)ライター3人の平均評価: 4.3
“囲碁”の展開みたく、個々の人物の手筋に“棋理”がある
これまで「自分のことしか考えていない奴ら」ばかりを好んで描いてきた白石和彌監督が、王道の人情噺を撮った。しかも時代劇という“新大陸”で。この大陸では様々な冒険ができる。それに随行した主演・草彅剛の終盤の野武士感、真っ直ぐな男だが一歩間違えればダークサイドに落ちてもおかしくはない危うさが、映画に陰翳を与えた。
また周囲の人物の行動――考え抜かれた囲碁の展開みたく、一つ一つの手筋に“棋理”があって良い。白石監督が敬愛する巨匠・小林正樹監督の時代劇、『切腹』(62)、『上意討ち 拝領妻始末』(67)、『いのちぼうにふろう』(71)などのエッセンスも感じた。遊女屋の扱いに、脚本・加藤正人のワザあり。
「任侠ヘルパー」に通じる草彅剛のダンディズム
あの「任侠ヘルパー」の翼彦一にも通じるダンディズムを感じさせる草彅剛演じる浪人の雄姿に痺れつつ、物語の発端となる“碁敵”を演じる國村隼から遊郭の女将を演じる小泉今日子に至るまで、キャスティングの巧さに圧倒される。初の時代劇となった白石和彌監督も、相変わらず職人として仕事をこなしており、香取慎吾を主演に迎えた『凪待ち』に続き、“新しい地図”という上質素材を生かした秀作に仕上げている。ただ、例によって監督の生真面目さが裏目に出たか、古典落語をモチーフにしながら、終始シリアスな重厚感に包まれており、ラストも含め、粋な作品にならなかったのは惜しまれる。
草彅剛と時代劇の相性の良さ
草彅剛という俳優と時代劇との相性の良さを感じる一本でした。これからもコンスタントに出演して欲しいところです。白石和彌監督としても初めての時代劇になるのですが、この監督はどのジャンルも巧くやってくれますね。囲碁という静かな存在をとても躍動的な映像にしているのは流石です。出演陣も白石組の常連から、新規組までも効果的でした。中にはあまり時代劇のイメージのない人もいましたが、見事に馴染んでいましたね。殺陣のシーンは演じ手の運動神経の良さが素直に反映されていました。復讐劇ではあるものの淡々とした部分もあって逆に新鮮でした。