枯れ葉 (2023):映画短評
枯れ葉 (2023)ライター3人の平均評価: 4.3
変わらずに、変わり続けてゆく至宝の監督の名作
カイエ・デュ・シネマのベストテンで初のランクイン(第5位)を果たしたアキ・カウリスマキ監督だが、内実も本作は『浮き雲』(96年)以来のピークポイントかと思う。お話は初期の『パラダイスの夕暮れ』(86年)に近いが、より無声映画的な純度100%の映画の原点に立ち戻ったような話法を見せる。
いまやIT先進国として知られるフィンランドだが、カウリスマキが目を向けるのは主流から取り残されたアナログな風景だ。旧型のラジオから流れるロシアのウクライナ侵攻の悲痛なニュース――これは時代の行方を独自の目線で見つめる監督そのもの。A・ポウスティ&J・ヴァタネンという本国のメジャーな俳優が主演しているのも大きい。
タイムレスでユーモラス。カウリスマキらしさに溢れる
2017年に引退を決めたカウリスマキが、また戻ってきてくれた。そしてその作品は彼らしさたっぷり。ラジオのニュースから舞台は現代だとわかるものの、それ以外は少し前の時代のような雰囲気で、タイムレス。労働者3部作に4作目として新たに加わったこの映画には、多くを持たなくてもしっかり毎日を生きている人たちへの優しいまなざしが感じられる。主人公のふたりはほとんど笑わないのに、せりふや「間」でユーモアを入れるのも、いつものことながらさすが。上映時間が長いエピック映画が増える中、ミニマリストでシンプル、作り手のしっかりした視点があって心をつかむこの映画に、なんだかほっとさせられる。
アキ・カウリスマキ監督のあの世界、再び
アキ・カウリスマキ監督が『マッチ工場の少女』などの初期作品の世界に帰ってきた。口数が少なく、どこか不器用な人たち。なぜかユーモラスに感じられてしまう、奇妙な間合い。誰のせいでもなく、うまく合わないタイミング。それでいて、物語は落ち着くところに落ち着いていく。
ストーリーは地味だが、空気はクリアに透き通り、世界の色彩は鮮やかな赤、青、黄色。なので、話が少々辛い方向に向かっても、気持ちは暗くならない。2人が一緒に見る映画や、その映画館の外にポスターが貼られた様々な時代の映画の数々は、監督の愛する映画なのだろう。そのポスター群の鮮やかな色彩も、この世界の色に似合っている。