ふれる。 (2024):映画短評
ふれる。 (2024)ライター3人の平均評価: 3.3
けっして心地の良い物語ではない
藤子・F・不二雄のSF短編的な想像力で、トゲのないコミュニケーションと摩擦のない友情に執着する若者たちの衝突と再生を描く。夢も目的も向上心もない主人公は、便利すぎるコミュニケーションツール(謎の生物「ふれる」)のおかげで、ぬるま湯のような友情に浸かっていたが、他者の登場によって関係性にヒビが入っていく。主人公たちの明確な成長は描かれず、最後は「決意」で終わるのがリアル。若い人ほどトゲのように刺さって痛い物語なのではないだろうか。けっして心地の良い物語ではない。永瀬廉、坂東龍汰、前田拳太郎、皆川猿時ら声の出演陣は全員本当に達者。それにしても高田馬場、都会の嫌な部分が集まりすぎ。
青春からの卒業式
『あの花』『ここさけ』『空青』と”青春”という時期を強く意識させる作品を手がけたクリエイター陣による、”青春からの卒業”を描いた物語。これまでの作品より一歩先を行く世代の思い悩む部分を”ふれる”という不思議な存在を介在させて描き出しました。一つの世代をフィーチャーした物語ではありますが、気持ちの伝わり方、伝え方という普遍的なテーマをもった物語にもなっていました。まさに今、大人の階段を上っているリアルタイム世代はもちろん、この時期を過ごしてきた人たちの心にも刺さるのではないでしょうか?
あえて、ファンタジーになりすぎない
幼い頃からの親友3人が、20歳になってそれぞれの道を歩み始め、はたして自分たちは親友のままでいられるのかと考える。そんな成長の一過程を描く物語なので、ファンタジー要素を用いつつ、あえてファンタジーになりすぎない、その微妙な配合ぶりが妙味。
3人が幼少時に親友になる契機となった存在の名前は「ふれる」。その体表には触れると痛いトゲがある。3人が暮らす高田馬場の古い日本家屋の洗面所、その家がある路地の写実的で細密な描き込み。アニメ声優ではない俳優が3人の声を演じるのも、リアルさのための演出か。物語の後半、超常的な事象が起きるが、その幻想的な光景も、あくまでも日常の風景と繋がっている。