レオノールの脳内ヒプナゴジア(半覚醒) (2022):映画短評
レオノールの脳内ヒプナゴジア(半覚醒) (2022)ライター2人の平均評価: 4
往年のピノイ・アクション映画へのオマージュもいっぱい
かつてはフィリピンの有名な映画監督だったものの、引退した現在は困窮している老婆が、ひょんな事故から未完成だったアクション映画の脚本の世界へ迷い込んでしまう。アクション映画スター出身の大統領まで誕生したフィリピン。なぜ我々はそんなにアクション映画が好きなのだろう?と疑問に感じたというエスコバル監督は、’70~’80年代に大量生産されたピノイ・アクション映画の数々にオマージュを捧げつつ、過酷な歴史を歩んできたフィリピン社会で民衆が映画に求めたヒーロー(=救世主)への憧れを浮き彫りにし、そのうえで争いや暴力のない世界への希望を謳いあげる。ちょっぴり切なくも温かくて微笑ましくてシュールな小品佳作だ。
フィリピン娯楽映画史への補助線にも誘われる新風
サンダンス、大阪アジアン、東京フィルメックス等を湧かせたM・R・エスコバル(92年マニラ生)の長編監督デビュー作。フェリーニの『8 1/2』を受け継ぐメタシネマの系譜と一先ず言えるが(邦題が近いカウフマンの『脳内ニューヨーク』も然り)、主人公のおばあちゃんの創作物がB級アクション映画なのが面白い。ホラーやファンタジー、コメディ、ミュージカル等をごった煮でぶちこんだ超ジャンル映画的な設計となり、タランティーノ的なグラインドハウス魂も感じる。
全体に甘美なロマンと冒険の精神が溢れ、アジア的スピリチュアリズムも良き味つけ。シュールな映像感覚も秀逸で、「半覚醒」に陥るシーンのイメージカットなど鮮烈!