パスト ライブス/再会 (2023):映画短評
パスト ライブス/再会 (2023)ライター3人の平均評価: 4.7
ロマンチックでなくても、愛のおとぎ話は成立する
端正な映画という第一印象。過剰なロマンチシズムや大げさなドラマ性を削ぎ落し、シンプルに、素朴に愛のおとぎ話を語る。
韓国と北米という距離に隔てられた幼馴染みふたりの関係と、それぞれの異なる人生の物語。スタートは一緒でも離れて生きると、たどり着く場所は違ってくる。そんな彼らの、それぞれの成長を見据え、飲み会や仕事などの日常の風景にさえ気持ちがにじむ心憎いつくり。
「デート映画ではなくて愛の映画」とソン監督は本作について語るが、それも納得。監督デビュー作にして、これほど洗練された作品を撮ったことに驚かされる。必見。
極めてパーソナルながら誰もが共感できる
セリーヌ・ソン監督自身の体験にもとづく究極にパーソナルな物語。だが、奇妙なことに、誰もが共感できるのだ。筆者の場合は、生まれ育った国と今生きる国、どちらも自分のアイデンティティで、どちらかが欠ければ自分ではないのだというところが、とりわけぐっときた。好き同士なのに人生のタイミングが合わなくて結ばれなかったという体験をした人も、きっと自分に重ねて泣けるはず。ソン監督が最初から決めていたというエンディングも、リアリティがあり、感動させる。この映画が世界でスマッシュヒットし、オスカーに候補入りするほど評価されたという事実にも、どこにいても人は似たような経験をするのだなと、ちょっとほんわか。
クライマックスの脚本・演出・演技は究極の切なさを届ける
小学生の時に結婚まで考えた相手に、大人になって再会したら…と、ちょい気恥ずかしくなりそうな設定も、計算された脚本と編集によって、24年間の空白が温かな昂(たかぶ)りをもって埋まっていく。忘れかけていた情熱が甦る感覚、そして踏み込めない躊躇を、映画を観る人にも共有させる。その心地よい流れに、監督のセンスを実感。
冒頭のバーのシーンからして、主人公たちの思いに想像をかき立てるうえで最高の演出。そしてラスト10分。タイトルのパスト ライブス=前世も優しく絡む極上のセリフとともに、それぞれの切なくも、やるせない感情が、ほとばしるように、かつ繊細に表現され、気を失いそうなほど陶酔し、胸をかきむしられた。