無名 (2023):映画短評
無名 (2023)ライター3人の平均評価: 3.7
結末を知った上でまた見直したくなる
とにかくゴージャスな映画。カメラアングル、照明、プロダクションデザイン、衣装、俳優たち、すべて美しい。俳優たちのせりふや行動にある「間」も、独特の雰囲気を高める。その一方、アクションシーンは迫力満点。ここではスタイリッシュ感を捨て、リアルで泥臭く、血生臭いシーンが展開される。時系列に従わず、前後を行ったり来たりする、パズルのようなストーリーの語り方も効果的。最初は少しとまどうかもしれないが、次第にチェン・アー監督の意図がわかってきて、最後はなるほどと感心。結末を知った上で、見逃していたディテールを拾うためにもう一度見たくなる。ワン・イーボーとトニー・レオンは演技、魅力とも抜群。
新旧美形スターの競演も見どころ!
日中戦争下の上海を舞台に、中国共産党に国民党、汪兆銘政権に日本軍と、それぞれのスパイが三つ巴ならぬ四つ巴の、血で血を洗う熾烈な諜報合戦を繰り広げていく。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』のチャン・アル監督による、ノスタルジックでスタイリッシュで退廃的な映像美、長回しと溜めを存分に活かした繊細な演出がなんとも艶めかしい。トニー・レオンにワン・イーボーという新旧美形スターの競演も眼福である。また、日本軍の残虐行為をストレートに描きつつ、しかしその一方で必ずしも誰かを悪魔化したりなどせず、大義名分のぶつかり合いを通して戦時下における暴力の不条理を際立たせている点も興味深い。
1940年代の上海、レトロでスタイリッシュな映像に酔う
1940年代の上海。都会の夜の中でスパイたちが裏切り合う。そんな設定からイメージする通りの、徹底的にレトロでスタイリッシュな映像で、スパイたちの哀しく切ない物語を描き出す。建造物、室内の調度品のデザインから、男たちがみな着用するソフト帽や三つ揃いのスーツ、モノクロではないのにモノクロを思わせる色調、もちろん画面の構図にまで、すべてにこの美学が貫かれている。この世界観にじっくり浸るのが心地よい。
スパイの欺き合いに相応しく、ストーリーにも技巧があり、時間を行き来して何度か登場するシーンが、後から別の意味をもって見えてくる。トニー・レオンとワン・イーボーのスタントなしの格闘も見もの。