バティモン5 望まれざる者 (2023):映画短評
バティモン5 望まれざる者 (2023)ライター2人の平均評価: 4.5
移民問題の様々な「本質」を描く力作
低所得者層が多く住むパリ郊外の巨大団地エリアの一角「バティモン5」を舞台に、地域の再開発を巡って真っ向から対立する行政と住民の攻防戦を、前任者の急逝で臨時市長に任命されたエリート医師ピエールと、自身も団地に住むアフリカ系移民である市職員アビーの異なる2つの視点から描く。なぜか自分と肌の色が近いシリア系移民ばかりに同情し、行政のルール(それ自体が理不尽であるにも関わらず)に従わない「不良外国人」を「分からせてやる」ために、どんどん排外主義者のような真似をしていくピエールの暴走は、「普通の人」の無自覚なレイシズムを炙り出して恐ろしいほどリアル。移民問題の様々な「本質」に光を当てた力作だ。
さらに研ぎ澄まされたアクチュアルな抗争劇
バンリュー映画の急先鋒、ラジ・リ監督が『レ・ミゼラブル』からのバトンを自ら引き継ぐ形で撮った第2弾。劇的密度は前作より高いほど。まさに仏版ブラック・ライヴズ・マター的な内容・主題で、製作・脚本を手掛けた『アテナ』も含めて2023年6月から起こったナヘル・メルズーク暴動との関連や類似も良く指摘されている。
物語は臨時市長に任命された医師の白人男性ピエールvsマリ系の若い活動家の女性アビーの対立構造で展開。まるで圧力鍋の蓋が吹っ飛ぶような勢いで、権力vs移民の分断と衝突が燃え上がり爆発する。撮影監督ジュリアン・プパールの空間把握が素晴らしい。戦場と化した団地を硬質のスペクタクルとして捉えていく。