トランスフュージョン (2023):映画短評
トランスフュージョン (2023)ライター2人の平均評価: 3
よくある設定から想像するのとは良い意味で違っている
退役軍人がそのスキルを使って悪いことに手を染めるという設定はよくあるものの、これはありがちな犯罪アクション映画というより、人間ドラマ。アクションも出てくるしそれらのシーンは緊迫感があるが、過去の決断への罪悪感、昔は仲が良かったのに今や疎遠になってしまった息子との関係やPTSDに悩む主人公をメランコリックに描く部分こそ、この映画の強み。時々時間を逆戻りさせる語り方は、何が彼を苦しめるのかを見せる上で効果的。そんな心の内を、サム・ワーシントンが、静かに、ニュアンスを持って表現する。今作で監督デビューを果たす元ラグビー選手で俳優のマット・ネイブルも、主人公の元戦友役として良い味を出している。
サム・ワーシントンは身体で演じる俳優だと痛感
『アバター』シリーズのサム・ワーシントンが、かつて凄腕のスナイパーだった元兵士を演じるクライム・アクション、という枠組み通り、バイオレンス度の高い銃撃&格闘アクションが満載。しかしそれだけでなく、本作が初監督作となる、監督・脚本と、主人公を犯罪に巻き込む元兵士仲間役の3役を兼ねるマット・ネイブルが、そこに登場人物たちの複雑な心理をプラス。主人公と元仲間の間にあるのは友情だけではない。主人公と息子は互いを理解したいのに、性格も資質も違うため微妙にすれ違う。ワーシントンが珍しく長髪で、主人公の心の動きを、全身で号泣するなど、セリフではなく体全体を使って演じるのも見もの。結末に希望があるのもいい。