夏の終わりに願うこと (2023):映画短評
夏の終わりに願うこと (2023)ライター2人の平均評価: 4.5
静かで、自然で、リアルな状況。だからこそ感動
ごく普通のメキシコ人家族の1日を静かに追っていく映画。後半にかけて観る者の感情は次第に高まっていき、最後は良い意味でなんとも言えない気持ちになる。登場するキャラクターや彼らの間のやりとりは、非常に自然かつリアル。どうでも良いような会話が自分もそこにいるような気持ちにさせ、住む国や文化は違っても人は人なのだということを思い出させる。そして、死は誰にでも訪れるものであり、本人や身近な人は、それぞれにその辛さに直面するのだということも。このようになにげないようでいてぐっと心に迫る映画を作るのは、容易ではない。可能性大と言われつつ逃したものの、オスカー候補入りしても良かった作品。
いつか来る死に裏打ちされた「生の歓び」としてのパーティー
家族や親戚が久々に一堂に会する――これ自体は定番の枠組みだが、本作で描かれる群像模様は奇跡のように美しい。少女ソル(スペイン語で太陽の意)の目を通した、生涯忘れられぬ記憶になるであろう夏の一日。ほぼワンシチュエーションのホームドラマの中に、祝祭と厳粛、喜びと哀しみ、光と影、生と死といった人生の悲喜交々が有機的に渦巻く。
監督はこの傑作が長編2作目となるメキシコシティ出身のリラ・アビレス。彼女は本作の在り様を「ひとつの小宇宙」と自己規定しており、犬や猫、かたつむりや蟻など多様な生命体も蠢く。確かに全ての生は期間限定。我々は誰もが時間ぎりぎりいっぱいまで自分なりのパーティーを続けるのだろう。