チャイコフスキーの妻 (2022):映画短評
チャイコフスキーの妻 (2022)歴史映画の写実と、主人公の幻想が溶け合う
柔らかく単純だったヒロインの気持ちが、次第に頑なさを増していき、複雑で歪んだものになっていく。それを描く映像は、衣装や室内装飾などの"外観"は写実的な歴史映画の形式に徹しつつ、"演出"がリアリズムとは無縁。室内は暗く深い緑色なのに、扉を開けると通りは炎が燃えているような橙色だったりする。少しずつヒロインだけに見える光景が増えていく。隣り合わせの写実と幻想、その二者の調合具合が興味深い。
監督は『LETO ーレトー』のキリル・セレブレニコフ。チャイコフスキーの妻が下敷きだが伝記映画ではなく、ヒロインの人物像は、悪妻という従来のイメージとは違う。ラスト近く、彼女が一人で踊る光景が美しい。
この短評にはネタバレを含んでいます