第62回カンヌ国際映画祭
第62回カンヌ国際映画祭
現地時間5月13日から開幕される第62回カンヌ国際映画祭。コンペ部門では、厳選された20作品がパルムドールを競う。菊地凛子の出演するイザベル・コイシェ監督の『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』をはじめ、クエンティン・タランティーノ、ペドロ・アルモドバル、ラース・フォン・トリアーなど巨匠の新作がめじろ押し! 頂点に輝くのは一体どの作品!?
コンペティション部門
『ブロークン・エンブレイシス』(英題)
スペイン | |
ペドロ・アルモドバル | |
ペネロペ・クルス、ブランカ・ポルティージョ、ルイス・オマールほか | |
交通事故により愛するレナと自らの視力を失い、“マテオ”という名を封印してペンネームで生きることにしたハリー・ケイン。14年前に起きた事故のことはすべて消し去ってしまい、盲目の脚本家として精力的に生きていた。 |
- 映画への愛を盛り込んだペドロ・アルモドバル監督の最新作。自身の映画やほかの名作を引用しながら、アカデミー賞助演女優賞を受賞して一段と輝きを増すペネロペ・クルス演じるヒロインと脚本家の愛をドラマチックに描く。3度目のカンヌだが、いまだ世界を代表する映画祭での最高賞を手にしていないアルモドバル監督。パルムドールはのどから手が出るほど欲しいかも。
『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』(原題)
スペイン | |
イザベル・コイシェ | |
菊地凛子、セルジ・ロペス、田中泯ほか | |
魚市場の従業員と殺し屋の、2つの顔を持つ孤独な女、リュウ。一方、興行主のナガラは娘を自殺に追い込んだらしいスペイン人のデイヴィッドを恨んでいた。ナガラの部下で、娘に思いを寄せていたイシダはリュウに殺しを依頼。そんな中、ある音響技師は音に取りつかれ、リュウに魅了されていて……。 |
- 映画『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェ監督が、菊地凛子を主演に迎えて東京で撮影したとなればがぜん注目。魚市場で働きながら殺し屋をしている一人の女と複数の男たちが交錯する、不思議なラブ・サスペンスで、菊地のほか、田中泯、押尾学、中原丈雄、榊英雄らが出演。カンヌ常連組の中、ただ一人初参加のコイシェ監督に期待したい。。
『テイキング・ウッドストック』(原題)
アメリカ | |
アン・リー | |
リーヴ・シュレイバー、エミール・ハーシュ、ジェフリー・ディーン・モーガンほか | |
ユダヤ人の両親が経営するモーテルを夏場だけ手伝うエリオット。両親の借金を返済するための奇策を思いつく。「モーテルの庭をコンサート会場として提供する」と運営事務局に電話で申し出たところ、とんとん拍子に話が進み……。 |
- 『ブロークバック・マウンテン』でゲイを描いたアン・リー監督が再びゲイの主人公に臨み、世紀のイベントの舞台裏を描く。原作はエリオット・タイバーの「テイキング・ウッドストック/トゥルーストーリー・オブ・ア・リオット・ア・コンサート・ア・ライフ」で、たった一本の電話が1969年のウッドストック・コンサートの実現につながった実話。リーヴ・シュレイバー演じるドラッグ・クイーンのヴェルマは元アメリカ海兵隊で、主人公にとって天使のような存在だという。
『イングロリアス・バスターズ』
アメリカ | |
クエンティン・タランティーノ | |
ブラッド・ピット、ダイアン・クルーガー、ダニエル・ブリュールほか | |
第二次大戦下、ナチスに侵害されたフランスではユダヤ系アメリカ兵によるゲリラ部隊“バスターズ”が台頭し第三帝国を恐怖に陥れていた。ナチによって家族を処刑されたユダヤ人の少女ショーザンナは、パリの街へ逃げ親切な女性に助けられた。そのお礼に女性が経営する劇場で少女は働くが……。 |
- 同映画祭とは、2004年にコンペ部門の審査委員長も務めているほど密接な関係にあるタランティーノ監督は、映画『レザボアドッグス』『キル・ビル』『デス・プルーフ in グラインドハウス』を出品。『パルプ・フィクション』で最高賞のパルムドールを受賞している。監督の新作は必ずといっていいほど世界で話題になる稀有(けう)な存在。本作は『キル・ビル』と同じ復讐(ふくしゅう)劇であるとされ、スターが結集した社会派作品として注目を浴びている。日本での公開は10月。
『フィッシュ・タンク』(原題)
イギリス、オランダ | |
アンドレア・アーノルド | |
マイケル・ファスベンダー、ケイティ・ジャーヴィス、カーストン・ウェアリングほか | |
15歳のミアは問題児で、学校や友人は彼女のことを厄介払いしたがっている。ある夏の日、ミアの母親が、同居人として謎の男コナーを自宅に招き入れる。彼は愛に満ちた暮らしを約束するが……。 |
- イギリス出身で女優経験もあるアーノルド監督は、長編デビュー作映画『レッド・ロード』(原題)で同映画祭の審査員賞に輝き、映画『ワスプ』(原題)でアメリカのアカデミー賞短編実写賞を受賞した実力派。イギリス映画界では近年稀にみる才能との評判で、今回はガールズ・ムービーで挑む。コナー役には『ハンガー』(原題)の熱演が記憶に新しいマイケル・ファスベンダーを起用した。
『アン・プロフェット(予言者)』(原題)
フランス | |
ジャック・オーディアール | |
タハル・ラヒム、ニエル・アレストリュプ、アデル・ベンチェリフほか | |
懲役6年を言い渡されたマリックは天涯孤独、中央刑務所の中では18歳と最も若く、そして弱々しかった。留置人たちの間の掟(おきて)を破ってしまったマリックだったが、力を持つコルシカ人グループの任務を果たすうちに信頼を勝ち得ていく。 |
『ヴィンチェレ(勝利)』(原題)
イタリア・フランス | |
マルコ・ベロッキオ | |
ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、フィリッポ・チミ、ミケーラ・チェスコンほか | |
はかなくも美しい時をトレントで過ごしたムッソリーニとイダは、ミラノで運命の再会を果たす。しかし、戦争が始まると同時にムッソリーニは参戦。ムッソリーニが去って彼にすでに妻がいると知ったイダは、妻としての権利と長男の認知を主張するが……。 |
『ブライト・スター』(原題)
オーストラリア・イギリス・フランス | |
ジェーン・カンピオン | |
ベン・ウィショー、アビー・コーニッシュ、ポール・シュナイダーほか | |
1818年の夏、23歳のキーツはロンドン北部のハムステッド・ヒースで下宿住まい。隣家の美少女で18歳のファニーに恋心を抱き、やがて二人は婚約する。しかし、キーツが結核を発病してしまい……。 |
- イギリスの叙情詩人・ジョン・キーツの生涯一度の悲恋を主軸に3年間の半生を描く伝記映画。実弟トムが結核で逝去しているため、キーツは自分の余命を察し愛する人を幸せにできない苦悩抱える。タイトルはキーツがファニー・ブローンにあてた手紙に添えた同名の詩に由来。カンピオン監督は同映画祭にて映画『ピール』で短編部門パルムドールを受賞し、映画『スウィーティー』を出品した後、映画『ピアノ・レッスン』でパルムドールを受賞した実力派女流監督。
『ア・ロリジン(起源)』(原題)
フランス | |
グザヴィエ・ジャノリ | |
フランソワ・クリュゼ、エマニュエル・ドゥヴォス、ジェラール・ドパルデューほか | |
ある詐欺師の男は高速道路の建設現場の責任者のふりをして、金をだまし取ろうと企んでいた。しかし、この道路の通る街の女性市長と出会った詐欺師は、愛に目覚め、激しく動揺する。 |
- “フランスのダスティン・ホフマン”ことフランソワ・クリュゼと、アルノー・デプレシャン作品の常連女優、エマニュエル・ドゥヴォスを迎え、映画『情痴 アヴァンチュール』のグザヴィエ・ジャノリ監督が挑む大人の恋愛ドラマ。今回、2度目となるカンヌで、すべて作風を変えながら評価を高めてきたジャノリ監督に、実力派俳優たちが栄誉をもたらすか!?
『ザ・ホワイト・リボン』(英題)【パルムドール】
オーストリア、フランス、ドイツ | |
ミヒャエル・ハネケ | |
ウルトリッヒ・トゥクール、スザンネ・ロタール、ブルクハルト・クラウスナーほか | |
1913年のドイツ。それは郊外の男子校で始まった。まるで何かの儀式として罰せられているかのような出来事があってから、学校教育は変わりゆく。ファシズムが影響を与え始めたのか……。 |
- イングマール・ベルイマンやカール・ラオドール・ドライエルをほうふつとさせるモノクロ撮影は、ハネケ監督の常連クリスチャン・ベルジェによるもの。商業映画とは一線を画す内容を描いてきた監督が、本作では学校の自由と権利について探求する様子。もともとはテレビシリーズの3部作として、映画『善き人のためのソナタ』に主演し、2007年に他界したウルリッヒ・ミューエ主演で企画していたという。
『ルッキング・フォー・エリック』(原題)
イギリス、フランス、イタリア、ベルギー | |
ケン・ローチ | |
エリック・カントナ、ステファニー・ビショップほか | |
マンチェスターの郵便局員、エリックは、退屈な人生を送っている。義理の息子たちや実娘は彼を悩ませ、人生はますます暗くなる一方だった。ある晩、マンチェスター・ユナイテッドのエリック・“キング”・カントナが人生を変えてくれるとエリックは確信する。 |
- 映画『麦の穂をゆらす風』でパルムドールを受賞した名匠、ケン・ローチ監督の新作。何と、マンチェスター・ユナイテッドの元スター選手で、現在は俳優のエリック・カントナとの意外過ぎる顔合わせで話題になっている。ローチ監督なのでイギリスの小市民のリアルを描くことには違いなく、また深い感動を味わわせてくれそうだ。
『スプリング・フィーバー』(英題)
中国、フランス | |
ロウ・イエ | |
譚卓、陳思成、秦昊ほか | |
2007年、南京。春風が心地良いある夜のこと。姜成と羅海涛は美しい女性と海で出会った。自然と身体を重ねる3人だったが、次第に感情面でのもつれが生じていく。 |
- 原題は、魯迅に並ぶ中国人作家・郁達夫の著書から命名。男2人と女1人の三角関係を大胆な生描写で描く。同映画祭のコンペ選出は映画『パープル・バタフライ』『天安門、恋人たち』以来。ロウ・イエ監督は名門・北京電影学院監督科出身だが、中国当局の検閲を受けずに発表した『天安門、恋人たち』により、5年間映画製作禁止の処分が下された。そのため本作の南京での撮影は、ハンディーカメラで敢行。なお本作も当局の検閲を受けずに上映するようだ。
『KINATAY』(原題)
フィリピン | |
ブリランテ・メンドーサ | |
ココ・マーティン、メルセデス・カブラウほか | |
犯罪学の学位を持つPepingは、妊娠した彼女と結婚するために同級生のAbyongから教えられたアルバイトを始めることにした。ところが、破格の報酬の裏には、シンジケートが絡んだ犯罪が隠れており、レイプした女性を殺し遺体をバラバラにしていた。 |
- 「エクスキューション・オブ・ピー」企画として始まり『KINATAY(意味:めった刺し)』に変更された本作。窮地に陥ることで、気付く幸せの本質を描いた作品。売春婦を描いた昨年の映画『サービス』(原題)に続いて2度目のコンペ出品となったのはフィリピン出身のメンドーサ監督。しかも2年連続して選出されたのは彼だけなので、期待が高まる。ちなみに主演のメルセデス・カブラウはパク・チャヌク監督の『サースト』(英題)にも出演している。
『エンター・ザ・ヴォイド』(原題)
フランス | |
ギャスパー・ノエ | |
ナサニエル・ブラウン、フィリップ・ナオン、丹野雅仁ほか | |
東京でドラッグの売買をしているオスカーと、ストリッパーの妹リンダ。ある夜、警察の手入れ捜査でオスカーが撃たれてしまう。リンダを見捨てないと約束したオスカーの魂は東京をさまよい、彼の幻影は悪夢のように漂っていた。 |
- 2002年の同映画祭では、衝撃作『アレックス』で物議をかもしたギャスパー・ノエ監督。約7年振りの新作は“死”がテーマ。東京での撮影は2007年の後半に終えていたが、ビジュアル・エフェクトに力を注いでいて、かなりの時間をかけたという。ノエ監督の作品には欠かせないフィリップ・ナオンも出演。またまた賛否両論がありそうな本作への評価が楽しみだ。
『サースト』(英題)
韓国、アメリカ | |
パク・チャヌク | |
ソン・ガンホ、シン・ハギュン、オ・ダルスほか | |
神父のサンヒョンはアフリカでワクチン開発実験に志願したところ、謎の血液を輸血されバンパイアになってしまった。ある日、不倫関係にある友人の妻テジュから「夫を殺害しよう」と誘われ苦悩する。 |
『レ・ゼルベ・フォル』(原題)
フランス、イタリア | |
アラン・レネ | |
アンドレ・デュソリエ、サビーヌ・アゼマ、エマニュエル・ドゥヴォスほか | |
マルグリットは店の出口でバッグを盗られるとは思ってもみなかった。しかも、駐車場に中身をぶちまけているとは思わなかった。ジョージがそのことに気付いていれば、それを拾おうとはしなかったはずだが……。 |
- 前回のコンペ出品作、映画『アメリカの伯父さん』から約20年、初長編でコンペ初選出の映画『ヒロシマモナムール』から実に半世紀のフランスの重鎮、アラン・レネ監督。出演はアンドレ・デュソリエとサビーヌ・アゼマ。レネ監督は86歳にして、初めて原作小説のある作品に挑戦するという(クリスチャン・ガイイ著「L'Incident」)。作品ごとに違った味わいを見せるレネ監督には、また驚かされることになりそうだ。。
『ザ・タイム・ザット・リメインズ』(原題)
イスラエル、フランス、ベルギー、イタリア | |
エリア・スレイマン | |
エリア・スレイマン、アリ・スレイマンほか | |
パレスチナのレジスタンス活動家、ファドは、身元不明の息子のことを思っていた。一方、現実に起きている政治の大混乱とともに、エリア・スレイマンにはある疑問が生じる。「彼はパレスチナに行ったのか、それともパレスチナは世界のどこかにあるのだろうか」。 |
- 2002年の同映画祭で審査員特別賞を受賞した映画『D.I.』の劇場公開によって、日本でも知名度を上げたイスラエル出身のエリア・スレイマン監督作。あるパレスチナのレジスタンス活動家を通して、1948年のイスラエル建国から現在までを描く。スレイマン監督のシュールでユニークな演出手腕で、この混乱の歴史がどう表現されるのか気になる。
『ヴェンジャンス』(原題)
香港、フランス | |
ジョニー・トー | |
ジョニー・アリディ、シルヴィー・テステュー、アンソニー・ウォンほか | |
愛する娘を殺した犯人に復讐(ふくしゅう)するために香港に来たコステロ。パスポートには“料理人”と記されていたが、コステロは20年前まではプロの殺し屋だった。 |
『フェイス』(英題)
フランス・台湾・オランダ・ベルギー | |
ツァイ・ミンリャン | |
リー・カンション、レティシア・カスタ、ファニー・アルダンほか | |
台湾人の映画監督シャオカンは、サロメを映画化するためにフランスのルーブル美術館を訪れた。チュイルリー庭園では人口雪が舞う中で、ヒロインの撮影をしようと計画する。 |
- マレーシア出身ながら主に台湾で活動する、3大映画祭の常連ツァイ・ミンリャン監督の最新作。本作はルーブル美術館による招待企画であり、同美術館全面協力のもとで2か月半に及ぶ撮影を敢行したもの。サロメ役のレティシア・カスタ(映画『ジターノ』など)は、モデルながら“新鮮さ”で起用された。クリスチャン・ラクロワの衣装提供や、大女優ジャンヌ・モローが映画の女神として登場するのも話題となっている。
『アンチクリスト』(原題)
デンマーク、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、ポーランド | |
ラース・フォン・トリアー | |
ウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブールほか | |
精神科医の夫は、息子を事故で失った悲しみから立ち直れない妻を森の中のコテージ・エデンに連れてゆく。そこは妻が過去に中世の魔女裁判に関する論文を書いた場所であった。そこで過ごすうちに夫妻を襲った悲劇は自然の摂理と悟り、自然界にある邪悪な力に気付く。 |
- 撮影技法の一つであるドグマ提唱者であり映画『ドッグヴィル』『マンダレイ』に次ぐ3部作完結編が待たれる鬼才トリアーの最新作。同映画祭の常連でもあり、過去には映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でパルムドールを受賞している。本作の初号版を観た関係者によれば映画『ホステル』と映画『ピアニスト』を足した感じであり、トリアー監督の集大成ともいえる手法で描くホラーだという。