激震の雨傘運動、中国返還20周年…香港映画界の今
映画で何ができるのか
今年4月、東京・テアトル新宿で第一回日本・香港インディペンデント映画祭が開催されました。香港といえば、カンフーにコメディー、フィルム・ノワールと素晴らしき娯楽映画を生んだ国。だが同映画祭で上映された作品は、2014年に香港で起こった反政府デモ・「雨傘運動」のドキュメンタリーを筆頭に、どの作品も中国との一国二制度の歪みの中で翻弄され、疲弊した人々を映し出しています。香港で今、何が起こっているのか……? 来たる7月1日の香港特別行政区成立20周年を前に、カメラを通して香港の変容を見つめてきた映画監督たちが白熱の議論を交わしました。
出席者:
チャン・ジーウン(『乱世備忘-僕らの雨傘運動』、『表象および意志としての雨』監督)
ヴィンセント・チュイ(『憂いを帯びた人々』、『狭き門から入れ』監督)
リタ・ホイ(『哭き女(なきおんな)』監督)
マック・ジーハン(『遺棄』監督)
ウィリアム・クォック(『アウト・オブ・フレーム』監督)
通訳:リム・カーワイ
司会・進行・構成・文:中山治美
インディペンデント映画も公開される日本がうらやましい
Q:4月にテアトル新宿で開催された日本・香港インディペンデント映画祭では連夜、『FAKE』の森達也や『水の声を聞く』の山本政志監督らベテランから『ケンとカズ』の小路紘史監督ら新鋭まで、日本のインディペンデント監督らと両国の映画制作の現状や違いについて語り合いました。印象に残ったことはありますか?
チャン監督:日本ではインディペンデント映画をミニシアターが支え、劇場公開されていることを知りました。香港ではミニシアターもありませんし、自主映画をサポートするような組織もありません。
Q:ヴィンセント・チュイさんらが行っている香港インディペンデント映画祭の会場・香港アートセンター・シネマでは定期的な上映はできないのですか? あの会場は、アニエスベーもサポートしていますよね?
ヴィンセント監督:あそこはレンタルスペースなので自主映画を上映しようと思ったら交渉しなければなりません。しかも香港で自主映画を上映できる会場はあそこぐらいしかないので、結構予約が詰まっているんですよ。
リタ監督:こうなったら、自分たちで映画館を作るしかない!
ヴィンセント監督:ただ香港の方が、日本のインディペンデントの監督たちより裕福かもしれません。わたしたちは、香港藝術発展局による助成制度を受けられますが、自分たちのお金ではないので多くの方に観せようという必死さが足りない。
リタ監督:そう、わたしたちには全てを失っても構わないと思うまでの覚悟はないように思います。山本政志監督なんて、何が何でも映画を撮りたいという願望が強いですよね。
ヴィンセント監督:日本は予算がないぶん、面白く観せようとする工夫もあります。
マック監督:今回、いろんな日本の作品を見ましたが、コストパフォーマンスが良いですよね。香港はスタッフが多いんですよ。
リタ監督:いろいろ学ばなければと思いました。
ヴィンセント監督:僕たちも助成金がなくなったら、面白い映画を作れるようになるのかな?(苦笑)でもバランスが大事ですよね。やはり映画制作をしながら生活を維持していくのも大変です。かと言って、助成金に頼り過ぎるのもいかがなものかと。
Q:逆に言えば劇場公開する機会がない中、どのようなモチベーションで映画制作を行っているのでしょうか?
チャン監督:少しでも多くの方に観てもらおうという努力は行っています。学校や公民館など地道に上映活動をするしかないのですが、それでも『乱世備忘-僕らの雨傘運動』はもう30回以上、自主上映されていますし、台湾など海外のドキュメンタリー映画祭などでも上映されました。
Q:製作費は回収出来ましたか?
チャン監督:はい。この映画で「雨傘運動」の現場に79日間通いましたけど、自分一人でカメラを回していたので、ほとんどお金を使ってないんです。もちろん生活費はかかりますが。制作費は約5万香港ドル(約70万円・香港ドル=14円換算)。そのほとんどが編集費用で、ここまで金額を抑えられたのは「雨傘運動」支援者に映画人が多く、その人たちが僕の作品をサポートしてくれたためです。例えば編集や色調調整等でかなり割り引いてくれました。本当に特殊な例だと理解していただければ。
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