本心 (2024):映画短評
本心 (2024)ライター3人の平均評価: 3.3
狙いや設定はチャレンジングだが、何を伝えたかったのか
観終わった時、作り手の伝えたかったテーマをしっかり受け止められるか。それは映画の評価のひとつの基準だが、本作の場合、かなり難航する気がする。ヴァーチャルとなった母の本心は察せられるも、そこが作品全体の感慨部分とはやや遠い距離感。主人公に絡むさまざまな人物&エピソードはとてもユニークな分、それらが最終的に彼の心情、決意などに関わり、収斂していかない(ように感じられる)ので、ぼんやりとした感覚、あるいは散漫な後味だけが残る。
近未来に日常になりそうなテクノロジー、現実とヴァーチャルの差異をさりげなく表現する、さすがの田中裕子の名演など、発見すべき見どころはいくつも用意されるので観る価値は大きい。
今の日本を見据えた人と人、人と最先端技術の共存についての考察
母子家庭で育った心優しい青年は、最愛の母とお互いに隠し事の全くない仲だと思っていたが、しかし不慮の事故で亡くなった彼女が実は「自由死」を選んでいたと知ってショックを受け、そんな母の「本心」を知るべくAI技術に頼ろうとする。たとえ近しい間柄であっても、人には多かれ少なかれ周囲の知らない別の顔があるもの。そんな表層では分からない人間の内なる多様性を掘り下げつつ、テクノロジーの進化と共に溝が深まっていく持てる者と持たざる者の分断、若者の貧困や高齢者の尊厳死など社会問題にも目を向けながら、人と人、人と最先端技術の「共存」について考察していく。舞台は近未来だが明らかに「今の日本」を見つめる作品だ。
期待通りのヒューマンミステリー
平野啓一郎の原作を監督・脚本に石井裕也&主演に池松壮亮という組み合わせで映画化ということなので、これは間違いなくしっかりとした映画なのだろうなと思っていましたが、やはり見応えたっぷりの作品となっていました。舞台設定としては近未来となっていますが、映画は意図的にポストコロナ禍の世界を彷彿とさせるものになっていました。この辺りの程よいリアリティの線引きが絶妙ですね。共演陣はその出番の長短に関係なく見事に機能。この辺りは石井監督の手腕が光ります。一人挙げるとすれば三吉彩花、ここへ来てジャンプアップした感があります。