ザ・バイクライダーズ (2023):映画短評
ザ・バイクライダーズ (2023)ライター3人の平均評価: 4.3
男の想いの中で、バイクの排気音が鳴り続ける
1960年代に実在したオートバイ乗りのクラブを題材に、世間の主流には属したくない人々を描くが、彼らの感性は普遍的なものだろう。もうバイクに乗らなくなった男が、ずっと胸の中で鳴り響く排気音に聞き入っているという場面が、この物語を象徴している。
かつてあったが今は失われたものを描くので、感傷的になりすぎないように、二重の枠組みを用いる。一つは、失われた後で振り返って描くという時制。もう一つは、当事者ではなく、近くにいた人物が語るという視点。それでも物語は充分に叙情的で胸を打つ。
実生活でもオートバイ乗りのトム・ハーディやノーマン・リーダスが、嬉しくてたまらなそうにバイカー役を演じている。
むき出しの人間ドラマが伝えるものは?
バイク乗りを主人公にして、1960年代の自由とその終焉を描く。『イージー・ライダー』をほうふつさせる、こんな硬派な物語が21世紀に生まれたことが嬉しい。
人と人がきちっと向き合えた時代の人間関係。そこには愛や友情、結束もあれば暴力や卑劣もある。J・ニコルズ監督らしい、そんなむき出しのドラマに、人間の本質が浮かび上がる。
時代の遺物と化すことを宿命づけられた、バイカーたちを演じるA・バトラーやT・ハーディの好演にも魅了された。人と人が直接向き合うことなく匿名でイージーライドできるSNSが一般化した現代に、この映画はどう映るのだろうか?
アメリカの歴史の小さな一角を生き生きと再現
アメリカの歴史の、ごく小さな一角。ジェフ・ニコルズは、60年代半ばにバイカー集団と時間を過ごした写真家の記録をもとに、失われたサブカルチャーをスクリーンで生き生きと映し出す。ここに出てくるのは、バイクという共通の趣味のもとに集まった、どこか無邪気なアウトローたち。暴力的な存在ではなかったのに、少しずつ変わっていく様子が描かれる。そんなマッチョな話を、ジョディ・カマー演じる女性の視点で語るところが面白い。バーやコインランドリー、こだわりの服装などを再現したビジュアルは、美しく、ノスタルジック。今最も注目のバトラー、ハーディ、カマーは当然ながら、ニコルズ映画常連のシャノンも目を釘付けにする。