1987、ある闘いの真実 (2017):映画短評
1987、ある闘いの真実 (2017)ライター4人の平均評価: 4.5
キャストの配置、スパイスの調合も見事な社会派エンタメ
デビュー作『地球を守れ!』では韓国映画アカデミーの同期、ポン・ジュノと比較されることも多かったチャン・ジュナン監督だが、ここまで骨太な大作を撮る逸材になるとは! 韓国民主化運動をグランドホテル形式で描く中、とにかく豪華キャストの配置が見事。息詰まるおっさんバトルが展開するなか、“デモ王子”を演じるカン・ドンウォンと覚醒する“お嬢さん”を演じるキム・テリの純愛をスパイスとして調合。社会派エンタメに仕上げるあたりは、原田眞人監督の『クライマーズ・ハイ』を遥かに超えている。ドキュメンタリー手法で撮られるなか、教会のステンドグラスから差し込む光など、映画的演出も効果的だ。
国家権力の横暴と隠蔽を覆した、一人ひとりの魂の熱きうねり
国家権力が学生を殺める。日本がバブルに踊った頃、韓国軍事政権下で民主化を唱えた庶民を弾圧する際に起きた忌まわしい記憶を、見事なエンタメ大作として仕上げている。当時の社会風俗を再現する熱量も半端じゃない。事実は隠し通せず、一人ひとりの正義感や良心に火が点き、政権への抗議が大きなうねりとなっていく、熱き魂のスペクタクル。但し、情緒過多であることは否めない。権力側の悪を憎々しく造形することで、物語はより強化される。所詮デモでは世の中は変わらないと厭世的だった少女の変化こそが、最大の山場だ。横暴と隠蔽を覆した真実の記録に、諦めと惰性が覆うわが国の今を省みた。
「カメ止め」を抑えて観客賞受賞の圧倒的パワー
「カメ止め」を抑えてウディネとカナダ・ファンタジア国際映画祭で観客賞を受賞。
社会派ドラマが万人にウケる娯楽作より支持されるとは驚き。だが、作品の熱量は「カメ止め」を超えていると言っても過言ではない。
そもそも基本たる脚本が秀逸なのだ。
独裁政権の中で生まれた対立を、各キャラクターの立場と個性を明確にしながら群像劇としてのうねりを作り上げていく。
政治や権力の横暴に作品で抗ってきた韓国映画界の伝統が生きているのだろう。
ちなみに本闘争のその後を追ったドキュメンタリー『Courtesy to the Nation』もあり、腐敗に加担していた政治家が朴槿恵政権を支えていたという。日本公開希望。
軍事独裁政権にNOを突きつけた庶民のパワーが伝わってくる
朴槿恵大統領の退陣を求める集会でも民主化のシンボルとして悼まれたソウル大生・朴鍾哲。彼の死をめぐって巻き起こった民主化運動の知られざる背景が次々と明らかにされ、憤ったり感動したりと気持ちが千々に乱れる。国家安定を免罪符に反政権と目した人物を次々に拷問する治安本部の恐ろしさに沈黙しなかった人々の自由を求める気持ちが痛いほど伝わる。キム・ユンソクやハ・ジョンウら大物スターが素晴らしい熱演を披露するなか、同じ題材の『タクシー運転手 約束は海を越えて』でもいい味を出していたユ・ヘジンの市井の人ぶりに共感。普通の人間であっても強い気持ちを持てば歴史を変えられるかもしれないと思わせてくれた。