音楽 (2019):映画短評
音楽 (2019)ライター3人の平均評価: 4.3
日常・脱力系な“バンド版『青い春』”
『青春デンデケデケデケ』にも似たロックの“初期衝動”を描いた原作を、あえてアニメとして映像化する面白さ。しかも、ロトスコープ手法との相性は興味深く、もう一人の主人公ともいえる、フォーク少年・森田の“覚醒した”演奏描写に関しては、ラルフ・バクシ監督の『アメリカン・ポップ』と同様のグルーヴ感を醸し出し、かなり高まることだろう。ロック名盤ジャケねた満載のうえ、原作より日常・脱力系な“バンド版『青い春』”テイストが強まった仕上がりだけに、若干過大評価されてる感はある。とはいえ、19年から続いている“劇場アニメの新しい波”の1本であることに間違いない。
至上の愛、“音楽=映画”
妥協なきミニマリズムにして衝動的で官能的。ロトスコープで製作期間は7年以上……というスタジオ狂な製作秘話は「名盤」にふさわしい伝説だ。音楽の生命力と映画の肉体を一体化すべく、『フラッシュバックメモリーズ 3D』の達成が松江×岩井澤タッグでさらに押し進められた。ひたすらワンコードで「ボボボ」と鳴らした時の覚醒感。大橋裕之の漫画に文字として刻まれた音が見事に立体化してヘヴィ&トランシーに響く。
もちろんフォークソング部が奏でるURCやベルウッドの雰囲気たっぷりの楽曲(……外道も!)など、鳴っている音が全て素晴らしく、余計なものが一切入っていない。100%可笑しくて気持ちいいひと夏の青春の神話。
祝!オタワ国際アニメーション映画祭グランプリ
ヤンキーがバンドを組んで音楽の楽しさに目覚める。
漫画家・大橋裕之の超シンプルなキャラクターたちを動かして、どうやって音楽を奏でることの喜びと興奮を表現するのか。原作ファンならずとも期待と不安が入り混じるところだが、正直驚いた。クライマックスの野外フェス・シーンでの意表を突くパフォーマンスと、巧みな動画と構図で表現したステージの疾走感。本作は製作に7年かけた労作で、実際の人間の動きを取り入れたロトスコープの手法が取り入れられている。その作品に込められた熱量と手間は人の心を動かすのだ。そして本作の出現が、類型的に陥っている今の商業アニメに刺激を与えることを何より期待するのだ。