83歳のやさしいスパイ (2020):映画短評
83歳のやさしいスパイ (2020)ライター2人の平均評価: 4.5
実家の老いた両親にもっと会いたくなる
南米チリで探偵事務所に雇われた高齢男性が、依頼主の母親が虐待を受けているのでは?という疑惑を調査するため、問題の老人ホームへ潜入捜査する。先ごろ地上波番組でも紹介されたドキュメンタリー。その見どころは疑惑の解明などではなく、それぞれに喜びあり悲しみありの長い人生を歩み、老いて社会と隔絶されてしまった人々の孤独と不安と夢と希望。そして、そんな彼らを見つめる83歳のスパイ、セルヒオさんの慈愛に満ちた眼差しだ。もっと頻繁に実家へ戻って両親に会いたい。そんな気持ちに強くさせてくれる。テレビで放送されたのは、あくまでも短縮されたダイジェスト。そこから漏れたシーンにこそ深い味わいと感動がある。
目立っちゃダメなはずの紳士スパイが人気者に!?
ご老人が新聞広告に応募して、スパイに採用される。あり得ない設定だが、老人ホームの虐待疑惑調査なので見る方も納得。応募してきた高齢者がスマホを使いこなせずに落ちるあたりはリアルだ。見事、合格してスパイとなったセルヒオの動向を追いながら、老人が直面する孤独や人間関係、認知能力の衰えなどを浮かび上がらせる監督の手法に感じ入った。人生の終盤を迎えた人々の肉声であり、入居者の日常も他人事とは思えず。一方、セルヒオに恋心を抱く老女も登場し、監督の計算を超えた展開になるのも微笑ましい。スパイだから目立っちゃダメなのに、ホームの人気者になる紳士セルヒオの温かさと人間力が本作をより魅力的にしている。