ダウンサイズ (2017):映画短評
ダウンサイズ (2017)ライター5人の平均評価: 3.4
米国版ウルトラQ「1/14計画」の縮小世界もアンチ楽園だった
人類が抱える人口過密、環境汚染、経済格差…といった問題を一挙に解決する人間縮小化計画。ハリウッド映画を観慣れた脳は、もっと冒険を!と物足りなさを感じるかもしれない。SFアプローチは、視覚的なフックを用意して人間の悲哀をより深化させるためのもの。縮小化に臨む段になって妻の裏切りに遭う主人公。アレクサンダー・ペイン作品における計画は常に上手く行かず、主人公はおろおろし始める。マット・デイモンの陥る哀れで滑稽な状況こそ本作の真骨頂。希望が叶う楽園などなく、人は身近な人間関係に希望を見出し、ささやかな幸福を掴むしかない。日本の高度成長期の傑作『ウルトラQ』の一篇「1/8計画」を推し進めた悲喜劇だ。
詰め込みすぎたせいでメインテーマが行方不明に!?
地球の資源・環境問題を憂えた科学者が人間を縮小させる技術を開発したというつかみはユニークだし、実践する人が現れることでさまざまなトラブルや葛藤が起こるのにも納得。ただA・ペイン監督には色々と伝えたいことが多すぎたようで、貧困格差や政治問題、新技術が悪用される危険性、拝金主義への嫌味とサブプロットが次々と。でも肝心な(と私が思っている)環境問題に関するメッセージが「?」なものに。今を一生懸命に生きるのはいいけど、200〜300年後の地球のことも考えようよ! マット・デイモン演じる主人公ポールも魅力ゼロ。腰が座ってないというか、何事も中途半端。性格が超きつい女活動家が彼には惹かれないでしょう。
脳内で噛んでるうちにだんだん好きになってきました
アレクサンダー・ペイン監督がこんな飛び道具を扱うのは初めて。いつもバランス抜群の語りで魅せる彼の、珍しく必死な格闘ぶりに稀有な味がにじみ出る。コスパの良さで釣るにはリスク高すぎ!という初期設定の奥にある意図が、驚きの後半で補完される展開。キャッチーな前半、デカい観念に挑む後半という二部構成感が面白い。
ただし大枠は『サイドウェイ』や『ファミリー・ツリー』と同じく、屈託を抱えた大人の冒険物語。人生を取り戻すための心の旅、とまで言えば完全にペイン定番の主題で、やはり核にあるのは「幸福論」なのだ。M・デイモンの生真面目さが素晴らしいが、目立つのはホン・チャウと、バブリー親父なクリストフ・ヴァルツ!
小さいことはいいことか?
アレクサンダー・ペイン監督作だけに、おバカコメディでもなく、動物に襲われるような『ミクロキッズ』な展開にもならない。13㎝になって第二の人生を歩き出した主人公は妻に裏切られ、ベトナム人活動家との出会いで人種問題について考え、やがては環境問題に直面していく。『オデッセイ』に続き、サバイブしようとするマット・デイモンの逆境キャラや、オスカー候補も納得な“猟奇的な活動家”ホン・チャウの好演に加え、先の読めない展開もあって、135分の長尺はあまり気にならない。ただ、あまりに大風呂敷を広げすぎたあまり、モヤモヤが残るのは否めない。クリストフ・ヴァルツとウド・キアのただならぬ2ショットに免じて、★おまけ。
アレクサンダー・ペインにしてはスケールが大きい話
アレクサンダー・ペインにしては、かなり異質な作品。映画の前半は、経済的に楽になるからという理由で妻と一緒に体を小さくすることを決める、主人公の個人的な物語。ここは、普通の人たちの生活をユーモアたっぷりに描いていて、とてもペインらしい。だが、映画が3分の1ほど進んでからは、環境問題とか、社会の格差だとか、果てはノアの箱船のような、やたら大きな話になっていく。前半と後半で違う映画になったようで、なんとなくまとまりがない感じがした。だが、アイデアはもちろん、ビジュアルもユニークで、新しいことに挑んだペインの野心は評価したい。