今夜、ロマンス劇場で (2017):映画短評
今夜、ロマンス劇場で (2017)ライター4人の平均評価: 3
2次元キャラを愛し抜く覚悟はあるかと問う、切ない寓話
高度成長期に、銀幕の中から現実世界にやって来た憧れのヒロイン。モノクロームな彼女と青年とのぎこちない恋が、半ば回想的な劇中劇として進行する。設定や約束事のディテールをもっと詰めるべき…と、かつて脚本を書いたという病床の老人にツッコミを入れながら観ていると、名作映画のサンプリングで構成されたツギハギだらけの物語の様相は徐々に変化する。これは、往年の映画への愛を語るようでいて、実はファンタジーが蔓延した現代のメタフィクションだ。生身の女性を選ぶことなく、虚構に耽溺することを選ぶ男を通し、リアルを放棄して2次元(2.5次元)キャラを生涯愛し抜く覚悟はあるかと問う、切なくも恐ろしい寓話である。
映画愛に溢れる暖かなファンタジー
古いモノクロ映画の中から飛び出してきたお姫様と、しがない映画助監督の青年のラブストーリー。明らかに『カイロの紫のバラ』にインスパイアされた物語だが、舞台を日本映画黄金期の’60年代初頭に設定し、『ローマの休日』から『狸御殿』シリーズまで様々な古典映画へのオマージュを盛り込むことで、映画愛に溢れる暖かなファンタジーに仕上がっている。
その一方で、ファンデーションを塗っただけにしてはヒロインの肌艶が自然過ぎだし、毛髪にまで色が付くのは変だし、涙を流すと目が赤く充血するし。ファンタジーだからこそ些細な描写は重要だ。また、時代の空気感を十分に再現しきれない点は、日本映画ならではの課題だと言えよう。
50年代映画のプリンセスの可憐と気品が甦える
監督は「綾瀬はるか史上、一番美しい綾瀬はるかを撮りたい」と意図したとのこと、それは実現できたのではないか。50年代映画のプリンセスの可憐さと清潔な気品が、現代という時代からも、現実という場所からも切り離されたところに創り出されて、まばゆい光を放つ。ヒロインの造形は予告編やポスターを見れば一目瞭然、「ローマの休日」「パリの恋人」など50年代のオードリー・ヘプバーンのイメージで、25着に及ぶ衣装もみな50年代ファッション。そこに日本のお転婆お姫さま映画「狸御殿」シリーズの雰囲気がプラスされているのも楽しい。ポスターを見てきっとこうだろうと予想した通りの物語が、そのまま描かれていくのが気持ち良い。
みどころは、新旧ハンサムガイ共演。
『僕の彼女はサイボーグ』を溺愛する人間としては、『ひみつのアッコちゃん』など、綾瀬はるか主演の“異形の愛シリーズ”として評価したいが、やっぱりムリです。ムリなんです! なにしろ、『ローマの休日』にしか見えないお姫様が、『カイロの紫のバラ』と同じくスクリーンから飛び出し、『カラー・オブ・ハート』ように色鮮やかに変化するという話を、堂々と“オリジナル”と言い切ってしまうのはいかがなものか。オチの展開も『~サイボーグ』にも影響を与えたロビン・ウィリアムズの某作に見えてくるし、全編を通して「なぜ、今?」感が付きまとう。なので、ハンサムガイな北村一輝と加藤剛を観るための映画として割り切った方がいい。