シネマトゥデイ編集長・下村 麻美

シネマトゥデイ編集長・下村 麻美

略歴: 創業時からの編集長です。というかシネマトゥデイを立ち上げました。

近況: ゴールデングローブ賞作品賞ドラマ部門にノミネートされた「メディア王~華麗なる一族」と「一流シェフのファミリーレストラン」面白いのでぜひ!

サイト: https://www.cinematoday.jp/

シネマトゥデイ編集長・下村 麻美 さんの映画短評

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  • PERFECT DAYS
    トイレの清掃員の所作から伝わる日本の「侘び寂び」
    ★★★★★

    2階建ての風呂なしアパートに住み、トイレ清掃の仕事に従事する独身の中年男性……そんな彼の毎日は完璧だ。

    彼のアパートの窓から見える木々は毎日表情を変え、ポケットカメラで撮る写真はフィルムでプリントされ、どれ一つとして同じ画はない。カセットテープで繰り返し聞く同じ曲も同じ音にはならない。ヴィム・ベンダース監督が人生哲学を語るかのような映像は、美しく微妙な変化を見せていく。

    なぜこの清掃員は毎日こんなに幸せそうなんだろう。なぜこの清掃員の所作はこんなにも美しいのだろう。日本人が忘れつつある「侘び寂び」をベンダースがこんなに愛おしい形で表現してくれたことに感謝したい。

  • TENET テネット
    ノーラン映画タイムサスペンスの最高峰
    ★★★★

    ノーラン監督の十八番であるタイムサスペンスの最高峰と言っていい作品。

    最近はタイムリープ映画が増えて、時間旅行の表現方法や理屈もだいたい定番化してきていたが、天才ノーランはナナメ上というよりも全く別次元のアプローチをしている。

    理屈を考えようとすると映画に集中できなくなるので、映像の斬新さを体験するつもりで観るのがおすすめ。音楽と映像のシンクロはまさにアート。そしてあまりの緊迫感に映画終了後は、さわやかな疲労とカロリー消費を実感する。

    エモーショナルな部分が究極の家族愛を表現した『インターステラー』のようなカタルシスを感じるまではいかなかったので星一つマイナスするが満点でもいい映画。

  • スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
    アベンジャーズ終了の喪失感をユーモアたっぷりに埋める
    ★★★★

    MCUファンにはうれしい『アベンジャーズ/エンドゲーム』から続く後日談。センチに描かれるかと思いきやユーモアたっぷりにアベンジャーズ・ロスを埋めてくれる。

    N.Y.がテリトリーのスパイダーマンがベネチア、ベルリン、ロンドンなど、ヨーロッパをスイングする姿は映画ならではの醍醐味で美しく、そして実際に歴史的建造物を破壊したのか心配になるほどのリアルな画でダイナミックに見せる。

    自らのアイデンティティーを探すピュアな高校生ピーター・パーカーが隣の隣人だけでなく世界の人々を救うヒーローに成長する物語の流れはごく自然で、前作から彼の成長を丁寧に描いてきたジョン・ワッツ監督の手腕に拍手。

  • ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
    「スター・ウォーズ」世代であることの幸せを感じる
    ★★★★★

    「スター・ウォーズ」シリーズをリアルタイムで観続けて来られたことの幸せがわきあがってくる1本。ハン・ソロの始まりの物語が丁寧に描かれ、こんなに長い間ハン・ソロを知っていたのに、こんなことも知らなかったんだ! と目からウロコな場面にたびたび遭遇する。チューバッカとの出会い、ミレニアム・ファルコン号との出会い、そしてハン・ソロの名前の由来まで、人間ドラマの名手ロン・ハワード監督だけにそれぞれに説得力のあるドラマがあり構成は超一流。若きハン・ソロ役のオールデン・エアエンライクはハリソン・フォード演じるハン・ソロと銃の構え方までそっくりなオーバラップ度100%で完成度の高さは文句なし。

  • ゼロ・グラビティ
    映画で出来る表現手段を巧みに駆使して作り上げた感覚映画
    ★★★★★

    「感覚で観る」というジャンルに分類される映画がある。本作はそのジャンルで最高レベル。

     映像の中で起きている出来事を、効果音、映像、音楽、と映画で出来る表現手段のすべてを駆使して観客に伝えようとするキュアロンの演出は、観客に、広大な宇宙空間で取り残される人間の感情の機微を知らぬ間に共有させる。

     マジックや催眠術に近いこのテクニックは、『トゥモロー・ワールド』でキュアロンが見せた長回しに見せる演出でも知らぬうちに観客の心拍数を上げていたはずだ。

     エッセンスとして加えられている人間ドラマは、客観的に考えると薄っぺらいのだが、このマジックにかかっているうちは強烈に感情に訴えてくるだろう。

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