ノア 約束の舟 (2014):映画短評
ノア 約束の舟 (2014)ライター3人の平均評価: 3.3
創世記読みながら進化論のヴィジュアル。こりゃ自爆だ。
のっけから、あのトンデモ映画『ファウンテン 永遠につづく愛』と同じ臭いがするぞ、と感じたが、予想はさほど外れず。聖書の記述を科学的(?)に再現しようとすればするほど「この方向性は間違いなくオカシい」という違和感ばかり膨れ上がる (岩石版トランスフォーマーのようなネフィリム!)。ノアが旧訳的父権主義に囚われたほぼ狂信者と化していくのは面白いが、方舟の上でイサクの燔祭じみた話を繰り広げるのは無理矢理に過ぎないか?…ま、過去作での折衷的な宗教的表象の扱いからも、そもそも聖書を信じてるとは思えぬアロノフスキー、そりゃあ上映禁止にする国も出るでしょうと思える表現を自爆的に繰り出していくのが壮観ではある。
箱舟伝説に投影された信仰心のダークサイド
なにしろ監督が監督なだけに、ありきたりな聖書映画に仕上がるはずもなかろう。信心深い真面目な男ノアが神からの啓示を受けたために、任務遂行の強迫観念と重すぎる責任のせいで次第に壊れていく。いわば「ブラック・スワン」の箱舟伝説版とも呼ぶべき問題作だ。
人間が堕落したとはいえ、なぜ大勢の罪なき人々を見殺しにせねばならないのか?周囲の疑問の声にも、それが神の御心だと耳を貸さず、無慈悲な決断を下していくノアの姿には、宗教原理主義のテロリストに通じる怖さがある。創造論と進化論を融合させた描写も実はかなり挑戦的だ。信仰心や信念というのは諸刃の剣。見る者の宗教観によって賛否が分かれる作品かもしれない。
アロノフスキー監督の解釈はかなり大胆!
アロノフスキー監督が、旧約聖書を大胆な解釈で映像化。「光あれ」で始まる世界創造をビッグバン理論に重ね、カインによる人類初の殺人を人類史上の歴代戦争に重ねるという解釈はありがちだが、その解釈を1シーンの映像にしてみせるところが、この監督の手腕。ノアが幻視する神の啓示のヴィジョンの禍々しさも、この監督らしい。
主人公ノアも、神に従うことが自分の望みなのかを悩むという現代的感性の持ち主で、ここがキリスト教団体の反撥を買った?
斬新なのは、聖書の別挿話から引用されたという、巨大クリーチャーたち。彼らの造形が、聖書よりも民話を連想させて、この物語に聖書とは異なる味わいを与えている。