ビザンチウム (2012):映画短評
ビザンチウム (2012)虐げられるヴァンパイア母娘の哀しみ
ニール・ジョーダン監督が「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」以来、久々に手掛けた本格的なヴァンパイアもの。若い姿のまま数百年に渡って生きながらえ続けるヴァンパイア母娘を主人公に、人目を避けて暮らす彼女たちの行くあてもない逃避行が描かれる。
まず設定がかなり独特。ヴァンパイアに血を吸われてもヴァンパイアにはなれない。キリスト教以前のものとおぼしき神殿で、特別な儀式を受けねばならないのだ。しかも、ヴァンパイアはフリーメイソン的な秘密結社で構成されており、そのメンバーは男性のみ。つまり、本来なら女性はヴァンパイアになれない。ゆえに、母娘は人間からもヴァンパイアからも身を隠さねばならないのだ。
血塗られた永遠の命を持つ者たちの哀しき宿命を主軸にしつつ、母娘がヴァンパイアにならざるを得なかった理由として、現代にも脈々と受け継がれる貧困や女性差別の問題を丹念に織り込む。舞台となる寂れた港町の荒涼とした風景がまた、虐げられるヒロインたちの悲哀と絶望を浮き彫りにして秀逸。淡々とした展開は総じて地味な印象だが、吸血鬼伝説の新たな解釈として非常に独創的かつインテリジェントな作品だ。