ケープタウン (2013):映画短評
ケープタウン (2013)ライター4人の平均評価: 3.5
フランス製ミステリのユルさもまた味。
アパルトヘイトという負の歴史を背景にした警察ドラマ。酸鼻な描写も続出し、今なお灯りの届かぬ闇の深さを思わせはするが……謎の核心が見えてくるとともに、そのリアリティは薄らいでいく。非道な優生政策は歴史上ままあるから、実際にこんな研究があった可能性は否定できないにしろ、犯罪の背景となるスラム街のロケーション、麻薬マフィアの面構えが本気なだけに、唐突なマッド・サイエンティストの登場はいささか荒唐無稽 (ま、それも面白いのだが)。原題からみても主役はズールー族のF.ウィテカー。それにしてはズールーである特殊性が描かれなさすぎるが、ラストの“追跡”には西部劇的なロマンティシズムがあって、いい。
過去に蝕まれた南アフリカ社会の暗部を描く
南アフリカのケープタウンで起きた凄惨な殺人事件。その真相を追う刑事コンビの前に、アパルトヘイトという過去の忌まわしい亡霊が立ちはだかる。
マンデラ氏は罪を赦すことで国民の和解を訴え、実際に多くの加害者が刑罰を逃れた。確かにアパルトヘイトは消滅したが、その暗い記憶と痛ましい傷跡は人々の心に深く刻まれ、精算されなかった過去が今もなお社会を蝕み続けているのだ。
それは主人公たちも同様。捜査が核心へ迫るたびに、彼らの古傷も疼いていく。アル中の薄汚れた刑事役で男臭い肉体美まで披露するオーランド・ブルームも健闘しているが、穏健な良識派の憤怒を全身に迸らせるフォレスト・ウィテカーの大熱演は圧巻だ。
“状況”はもちろん“人間”も壮絶な社会派サスペンス
アパルトヘイトが撤廃されてから20年が経つとはいえ、傷あとは簡単には癒えないし、癒えることのない傷もある。そんな現実を伝えている点で社会派サスペンスの歯応えは十分。
危険すぎるドラッグ流通事件の真相が、少しずつあぶり出されるサスペンス。真実が明かされるほど、南アフリカの過去と現在の、地続きの闇が見えてくる。
そんな“状況”以上に切実に迫ってくるのが、フォレスト・ウィテカーふんする刑事の“人間”のドラマ。一見マジメだが、アバルトヘイト時代に受けた凄惨な迫害により、心の傷がジワジワと浮かび上がる。そのストレスや怒りが一気に噴出するクライマックスに仰天させられた。
南アフリカに刻まれた溝の深さを思い知る
アパルトヘイトは撤廃されたものの、南アにおける貧困層は今なお圧倒的に非白人層だし、失業や貧困から生まれる犯罪も蔓延している。本作は強行犯撲滅課所属の刑事アリとブライアンが殺人事件の捜査をきっかけに歴史の闇に潜む過去の亡霊を暴く展開で、物語には南アの現状と政治問題が色濃く反映されている。捜査の進行とともに明らかになるのが人知れず葬られるホームレスの子供たちや弱者を食い物にする犯罪者、そして彼らを陰で操るエリート層の存在や事なかれ主義の官僚たち。どんな国でも起こりえる事件だが、南アの残酷な歴史と驚愕の現状を知っているとさらなる苦々しさが胸をよぎる。やはり南アに刻まれた溝は深いのだ。