トゥ・ザ・ワンダー (2012):映画短評
トゥ・ザ・ワンダー (2012)時代状況にまみれることのない詩人の強靱な意志と繊細な魂
テレンス・マリックは『ツリー・オブ・ライフ』に続き、深い絶望を抱く内面を露わにする。物語ることを放棄し任意の時間や場所に舞い降りて、感情の赴くままキャメラを流麗に操り、愛を囁いたかと思えば、やがて苦しみにもがき彷徨う。父との関係を軸に家族の在りように思い悩み、神に問いかけ始原にまで遡って生と死を見つめた前作に対し、『トゥ・ザ・ワンダー』は愛の軌跡を顧みる。これは、情愛と孤独の狭間で揺れる魂の詩だ。
幸福だったひととき。男は、モン・サン=ミシェルで失意のどん底にいた女性と出会って愛を誓い、オクラホマへ移り住むが、長くは続かない。別れ、そして新たな女性との出会い。言葉にしてしまえば俗世の事情と何ら変わりようもない愛の遍歴が、説明を排し俳優の即興表現によって、神の前で愛の永続性を貫けず煩悶する精神の漂流へと昇華する。
映画の現在に抗い、演劇性さえ拒否している。抽象的すぎると斬り捨てるのは容易だが、ここには、時代状況にまみれることのない詩人の強靱な意志と繊細な魂がある。