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夏の終り (2012):映画短評

夏の終り (2012)

2013年8月31日公開 114分

夏の終り
(C) 2012年映画「夏の終り」製作委員会
清水 節

薄暗い昭和30年代の息遣いの中に満島ひかりの情念が立ち込める

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 別れられない女と男。愛か惰性か。ストーリーを伝える映画ではない。熊切和嘉監督の眼差しが、満島ひかりの魅力を際立たせる光と影の集積だ。昭和30年代の息遣いの中で、女は、男と男の間で漂う。妻子ある年上の売れない作家・小林薫と、かつての年下の恋人・綾野剛――優柔不断な中年と、生気なき若者。食事、雨、坂道…短い象徴的なシーンの積み重ねの中の表情が、三人の関係性を炙り出す。爛れている。しかし湿っぽい性愛描写はない。電話や手紙を介して、年上男のまだ見ぬ妻への嫉妬を表わすシーンが秀逸。世間から取り残された彼らの、心象風景としての超自然的場面も効果的だ。
 
 淡路島などに再現された、貧しくも生活感に満ちた当時の東京が、もうひとつの主役。『横道世之介』で80年代を再現した、撮影・近藤龍人&美術・安宅紀史の陰影礼賛が傑出している。成瀬巳喜男作品には及ばないと断じるシネフィルは現れるだろうが、聞き流せばよい。ここにはしっかりと時間や空気が流れている。分かちがたい精神に充ちている。そして何より、満島ひかりの吐息、汗、覚悟…が、映画を豊かにしている。つまり情念が立ち込めている。

この短評にはネタバレを含んでいます
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