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ニーナ ローマの夏休み (2012):映画短評

ニーナ ローマの夏休み (2012)

2013年8月10日公開 80分

ニーナ ローマの夏休み
(C) 2012 Magda Film, Paco Cinematografica
今 祥枝

これは白昼夢? 幻想と現実の狭間をたゆたう心地よさ

今 祥枝 評価: ★★★★★ ★★★★★

30歳には、まだ遠い主人公ニーナ。秋に留学するべく準備のために、バカンスで人が消えたローマ郊外の町エウルで過ごす、ひと夏を描く。未来へのたくさんの希望と好奇心、そして人生への少しの不安を抱きつつ、次のステップに羽ばたく前のほんのひと時、ふっと気の抜けた感じ。スクリーンに映し出されるのは、そんな彼女の心象風景そのものだ。

さしたる物語はない。頼まれた犬の世話をしたり、習字を練習したり、少年との交流やロマンスめいた出来事などがランダムにつづられる。だが、建築を学んだ女性監督の美意識に貫かれた映像世界は、次から次へとインスタレーションを観るかのごとく。太陽がふりそそぐ人影のない街の様子は白昼夢のようでもあり、平凡な日常の風景も、しゃれた短編集やエッセイを拾い読みするかのような味わいに変わる。

映画は、ニーナの成長を描くものではない。それはこの後の物語だ。今は漠然と”普通の幸せ”を望んでいる、まだ何者でもないひとりの若者であり、人生はこれから。そんなニーナの、ただ何となく過ごす夏休みの贅沢さに、めまいがするほどの羨望を覚えるのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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