トランセンデンス (2014):映画短評
トランセンデンス (2014)ライター4人の平均評価: 2.3
C・ノーラン印も品質にばらつき有り【ネタバレ有り】
映画界において、ジョニデやC・ノーラン作品と言えば品質保証が確約されているイメージがあったが、その定説も崩れつつあるようだ。亡き天才科学者の知能がインストールされたコンピュータが、人間社会を操っていく。これまでも同様のテーマはあった。とはいえ、近い将来ありうる話だけに、では我々はどのように対応したらいいのか?という部分を期待して見るはずだ。ところがFBIは、ジョニデを殺害した過激派テロ集団と徒党を組んで武力制圧を試みる。その展開も浅はかだが、ジョニデ殺人犯はお咎めナシですかい。
新人監督&新鋭脚本家のタッグ。彼らをデビューさせるための、ノーラン組の温情映画だと心して見るべし。
言うなればハイテク版「フランケンシュタイン」
いわゆる科学技術の暴走という筋書きに目新しさはないが、AI(人工知能)に人間的な意志や感情を移植することは本当にできるのか?というテーマには、それが決して絵空事ではない時代だからこその現実味が備わっている。
案の定、行き過ぎた技術進歩は新たな怪物を生み出してしまうわけだが、このハイテク版「フランケンシュタイン」とも呼ぶべきストーリーが全く想定の範囲内で、簡単に先の展開が読めるのは食い足りなかった。
大量殺人を犯したテロ組織のリーダーが、厳重な警備のもと身柄を拘束されるわけでもなくFBIの捜査に加わるなど、よく考えると首を傾げるような点も多々あり。どうも細部の詰めが甘いという印象が残る。
ストーリーテリングの不在が痛い。
天才科学者の頭脳をインストールされたコンピュータが地球を脅かす…ってそれ、いつの時代の発想なんだ。『地球爆破作戦』かよ、と皮肉も言いたくなる。とても『her』と同時代の作とは思えない。ナノロボットが人類や地球を支配していく描写も安易。肉体を失ったジョニデ以外の登場人物(M.フリーマン、P.ベタニーら実力派キャスト群)は、いつしか何故か対A.I.テロリスト側と合流するのだけど、呆れるほどに何もできない始末。結局はR.ホールとの「夫婦愛」が持ち出されて……いや、この「愛」とやらが描きたかったのかも知れないが、それならいっそ硬派ぶるのを捨て、ロマンティックに開き直れば良かったものを。
カメラマン出身監督がやりたかったのはきっとコレ
本作が監督デビュー作となるウォーリー・フィスターは、撮影カメラマン出身。クリストファー・ノーラン監督作の撮影を「メメント」から「ダークナイト・ライジング」まで担当した。だから本作については、まずカメラマンとして、人工知能の硬質で冷たい青色と、大地の柔かく暖かな橙色を、特にその質感を重視して、対比的に描くことに魅力を感じたのではないか。
そして、この2者の対比が、物語と強く結びついているから、監督したいと考えたのではないだろうか。
映画中で、前者は後者との差異を"超越"して、別の何かに進化しようとする。それをどうやって説得力のある映像にするか。監督は、その難業に果敢に挑んでいる。