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かぐや姫の物語 (2013):映画短評

かぐや姫の物語 (2013)

2013年11月23日公開 137分

かぐや姫の物語
(C) 2013 畑事務所・GNDHDDTK

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

清水 節

「ファンタジー」が人を不幸に陥れる酷い現実を冷徹に突き付ける

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 宮崎駿の熱情がふつふつとたぎる紅い太陽ならば、高畑勲の知性は冴え冴えと照らす蒼い月だ。長い闇を経て高畑の執念は実った。水彩画や水墨画を思わせるかすれ気味の線に、塗り残しと余白。“生命を得て躍動する日本画”と呼びたいほどにアートとしても貴重な一品である。『竹取物語』の筋書きをそのままに、原作には描かれていない要素へ思慮深い解釈を加えることで今と斬り結び、淡い光で生と死の世界の在りようを浮き上がらせる。

 かぐや姫とは、本作の中で「ファンタジー」を一身に担う存在。成長目覚ましい絶世の美女は、人々に一体何をもたらしたか。それは「不幸」である。彼女の存在に触れた周囲の人々は皆、幸せから遠ざかる。観る者はカタルシスなど得られない。高畑はファンタジーが人を不幸に陥れるというむごい現実を冷徹に突き付けた。アニメはこの30年、いや高度成長期からの半世紀以上、果たして私たちを幸せにしてきたのだろうか。ファンタジーを否定する本作の苦々しさは、アニメの中で願望を充足させようとする者たちへの痛烈なメッセージでもある。かぐや姫は、現代人の負の肖像だ。

(※3600字版はプロフィール下の<サイト>URLへ)

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

四半世紀ぶりに日本映画界が再検証

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『E.T.』にインスパイアされ、「かぐや姫=宇宙人」という設定からSF評論家の石上三登志も脚本に参加した市川崑監督作『竹取物語』から、早くも四半世紀。ということで、本作は改めて日本最古の物語を検証してくれる(良くも悪くも、そこに尽きる)。

 冒頭の古語表現で語られるナレーションから、あまりにゆっくりした語り口に、一瞬戸惑うものの、「まんが日本昔ばなし」のように、これぞ原作の持ち味を生かした描き方だろう。伊集院光の怪演も光る姫が出す難題に挑む大臣たちの姿も、かなり時間を割いて描かれるが、この穏やかなリズムは心地良くなり、『風立ちぬ』より11分長い尺も、さほど気にならない。

 確かに、かぐやと村の幼馴染との関係は、ハイジとペーターのようにも見えるが、天真爛漫で恋愛ベタな彼女の性格は、むしろ声を吹き替えた朝倉あきが以前演じた「とめはねっ! 鈴里高校書道部」のヒロインとも重なる。そして、幼いかぐやの呼び方について、翁と子供たちが繰り広げる絶叫バトルは、高畑監督の前作『ホーホケキョとなりの山田くん』でのチャンネル争いを思い起こされる。この狂気炸裂のシーンだけでも一見の価値アリ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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