エクス・マキナ (2016):映画短評
エクス・マキナ (2016)ライター5人の平均評価: 4.6
人工知能が人間に取って代わる時代が来るかも!?
欧米では1年以上前からカルトな人気を博し、ついにはメジャー大作群を抑えてオスカーまで獲得してしまった英国産SF映画。低予算を逆手にとったミニマルでスタイリッシュなビジュアル、高度に知的で奥の深いストーリーなどは、ジョージ・ルーカスの処女作「THX-1138」をも彷彿とさせる。
人工知能に感情や人格は備わり得るのか?というテーマは決して新しくないが、そこから振り返って我々人間の根本的な存在意義に疑問を投げかけていくところが本作の真骨頂。不完全で欠陥だらけの人間よりも、もしかすると人工知能を搭載したアンドロイドの方が世界を合理的かつ平和に治めることが出来るかもしれない。そんな風にも思えてくる。
アートのように堪能させ、知的SFとして未来を考えさせる傑作
アートのように堪能させ、知的なSFとして未来について考えさせる。物語の軸は、AIが正常に思考しているかどうかを確かめるテスト。機械生命体エヴァ、抑圧的な開発者、純朴なプログラマー。成長株の若手3人のアンサンブルが高度な化学反応を起こす。官能的なデザインと繊細な身のこなしや微細な表情に見とれ、思わずエヴァを人として認識してしまう。抗しがたい美しさを前に、人間性とは?倫理とは?と思いを馳せる。そしてダイバーシティ=多様性という考え方の中に、人型ロボットも入れるべきではないかと思い始める。『ターミネーター』に象徴されるAIの禍々しい叛乱など起きる必要もなく、彼らは未来社会の実権を握るかもしれない。
人工知能は本当に危険な存在になり得るみたいね
ホーキング博士らが人工知能の進化に警鐘を鳴らしているし、例え人工知能にセーフガードをつけても『アイ、ロボット』みたいな反乱が起きないとは言い切れないような気がする。でもこの映画を見たら、すべての概念は「人間が上」と奢っている証かもと反省。開発した人工知能をおもちゃ扱いする傲慢な男と最新の人工知能エヴァをテストするために招聘されたギーク青年は『マイ・フェア・レディ』の教授になるはずがそうは問屋が卸さなかった!? 人工知能がエモーションを持つことの危険性に着目したアレックス・ガーランド監督、慧眼なり。無表情を維持したまま複雑な感情を表現したエヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルにも脱帽だ。
サスペンス要素満載のオトナのSF
脚本で参加した作品は、なぜか微妙な仕上がりなアレックス・ガーランドだが、監督デビュー作である本作で、いきなり先頭打者ホームランをカッ飛ばした!日本のアニメにあってもおかしくないネタだが、抜群のセンスでスタイリッシュかつ、ほのかにエロスも漂うオトナのSFであり、密室サスペンス・ミステリー。低予算ながら、『フォースの覚醒』などを抑え、オスカーに輝いた視覚効果も目を見張るものがあるが、近年量産されるAI(人口知能)ものではダントツの仕上がり。もちろん、美しき女性型ロボット“エヴァ”を演じたアリシア・ヴィキャンデルは、『リリーのすべて』の10倍魅力的だ。遅すぎた日本上陸を大いに歓迎したい!
ひとつの美意識、重曹的な物語
無数の対比。その意味上の対比が、視覚で認識できる形で現れる。窓のない部屋/緑あふれる屋外、肉食系経営者/草食系従業員、男性/女性、有機物/無機物。そして、その世界の形は、製作費ではなくセンスによって、ひとつの美的感覚で貫かれている。例えばセットを変えるのではなく、"停電"によって別の空間を出現させる。物語は重曹的で、コンゲーム、認識論、人形愛、ファム・ファタール等の多様なキーワードが散りばめられている。それでいて会話劇ではなく、感情の起伏も、サスペンスのスリルも備えている。
この監督はジェフ・ヴァンダミアのSF「全滅領域」を映画化中。映画化が難しい原作だが、どんな映画になるのか見たくなる。