黒いスーツを着た男 (2012):映画短評
黒いスーツを着た男 (2012)フランスの美形、ラファエル・ペルソナの瞳が語る孤独ともろさ
人生の成功を約束する結婚を控えた男が、ひき逃げ事故を起こし転落していく。1960〜70年代のフィルム・ノワールを彷佛とさせる映像世界は、ジャンル映画のファンを喜ばせる。だが、カトリーヌ・コルシニ監督は被害者がモルドヴァからの不法移民であることで社会問題を浮き彫りにし、目撃者の女性と犯人の道ならぬ関係から贖罪の物語へとジャンルの枠をとっぱらう。主人公と被害者の妻、目撃者が所属する“3つの世界”(原題の直訳)が交錯する構図は、むしろ社会派サスペンスである。
「アラン・ドロンの再来」とも言われるラファエル・ペルソナは、より線が細く、いい意味での”薄さ”が今風か。本作では深い孤独ともろさがにじむ瞳が印象的で、救いを求めてすがるような表情は女性の心に訴えまくる。時にやや強引とも思える展開への説得力にも、このアピールは欠かせない。
アルの心の奥でくすぶっていた感情が溢れ出す終盤は、それまでの内省的な静の演技と動の対比が秀逸。余韻を残すラストシーンの、もの言わぬ表情は複雑で切なく見入ってしまった。ドロンとはまた違った、フランスの正統派美形ペルソナの魅力が本作にはぎっしり詰まっている。