WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~ (2014):映画短評
WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~ (2014)ライター5人の平均評価: 4
映画界は三浦しをんに足を向けて眠れない
三浦しをん原作は映画人を本気にさせるようだ。『舟を編む』の石井裕也監督に続き、矢口史靖監督まで脱皮させるとは。すっとこどっこいな主人公の成長物語はいつものパターン。しかし原作と林業に対する敬意が、ありえない設定で笑いを誘う常套手段をも軽減させ、主題が際立つようになった。
素晴らしいのが林業チーム。俳優が地方の、しかも職人を演じるとなると嘘が見えるが、男気マッチョ伊藤英明やマキタスポーツらの成りきりが見事。そこには当然、原作にも負けないリサーチや労力があるワケで。今年は『銀の匙 Silver Spoon』や『祖谷物語-おくのひと-』など長期ロケ型映画が多いが、やはり時間と質は比例するようだ。
五穀豊穣の祭りがすべてを救う。
矢口史靖的ビルドゥングス・ロマンに還った本作。ヘラヘラした都会人・染谷将太(不穏な空気を発散することないこの役は彼の新境地)が、ひとりの杣人として林業コミュニティで認められていく過程をツルンと見せる。田舎社会の象徴的存在たる直情径行手バナ男・伊藤英明(「海猿」じゃなく山猿!…ってのは誰もが思いつくコトか)も、その単純明快な肉体性込みで可笑しい。しかしコクのなさ過ぎる笑いやヒネりのない展開にうんざりもするし、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』と同じく、クライマックス直前であり得ないアクシデントを設える悪しきクセも相変わらずだ。でもその後の「祭り」には…ちょっと興奮したぞ。
結果が出るのは遥か先だから、なあなあな気持ちで!
矢口靖史監督と原作者・三浦しをん氏の笑いのツボが似ているようで、絶品のコメディに仕上がっている。第一次産業のなかでも“地味”な林業に飛び込んだ今どきの若者が人間として成長していく姿が本当に好ましい。車で跳ねた鹿を食べ、マヌシを簡単に捕まえ、川の水でのどを潤す田舎の人を間近に見てビビる都会っ子!? ステレオタイプだけど、やがて彼が郷に従っていくのが自然でよろしい。さらに物語の合間に林業についての解説をきっちり織り込んだ姿勢がうれしい。樹木を育て、木材になるまで100年以上かかる壮大な仕事は日常生活では見逃されがち。でも実は非常な労力が加わっていると思うと、木材を見る目が今後は変わりそう。
染谷将太がジャッキーアクションに挑戦!?
『ウォーターボーイズ』で女性顧問に惹かれ、シンクロするハメになる高校生のように、パンフに掲載された美女に惹かれ、林業研修に参加するチャラ男。このように、矢口監督お得意の巻き込まれ型・ど根性ドラマだけに、前2作に戸惑いを感じた人も大丈夫。
もちろん、動物・幼児虐待ギリな矢口流ブラックユーモアも健在で、ラストまで引っ張る“祭りの主旨”も、かなり挑戦的。また、そこに至る過程でジャッキー・チェンが『ライジング・ドラゴン』で行なった丸太アクションに挑んだ(笑)染谷将太の、いつの間にモノにしていたメジャーなオーラも眩しい。かなり似た役柄で西田尚美が出演しているだけに、『銀の匙』と観比べるのも一興。
三浦しをんの原作が、矢口史靖を「男」にした!
いわゆる「原作の映画化」としては改変が多く微妙かも。だが矢口史靖監督作の流れで観れば見事な更新。基本は『ウォーターボーイズ』以降のパターンと同じなのだが、林業を通した土俗性が矢口ワールドに生っぽいヒューマニティーを与えているのだ。
マンガ的造型の矢口キャラたちが、山奥のリアリズム世界に置かれるのは良い意味で珍味。クライマックスの祭りではエミール・クストリッツァまで連想してしまった。
若手最優秀の染谷将太、ふんどし男の大群に囲まれる長澤まさみなど、役者は子供たちも含め皆素晴らしいが(方言も上手)、ウッジョブ大賞を差し上げるなら伊藤英明。フン!と鼻クソを空気圧でワイルドに飛ばす男気に痺れた!