祖谷物語 -おくのひと- (2013):映画短評
祖谷物語 -おくのひと- (2013)ライター2人の平均評価: 4
普遍的なテーマを圧倒的な映像美で語る
香港国際映画祭など海外映画祭受賞の栄冠を引っ提げて、都内でアンコール上映中。山育ちのヒロインの目線で、開発や都会への憧れに揺れる村人を見つめながら自然と人間の共存を問う。映画『大鹿村騒動記』やドラマ「リーガル・ハイ」でも題材にしていた普遍的なテーマだが、35mmフィルムを使い地域に根ざした基本に忠実な映画作りは、デジタル時代の今、かなり新鮮。しかも自主製作。無垢な情熱は、無条件に人の胸を打つことを教えてくれる。
ただ、自然との対比として都会の描写を入れた事は、上映時間の長さも含め賛否あるだろう。個人的には、人間の愚かさもすべて山シーンで雄弁に物語っているので、蛇足という印象は否めない。
ジブリの孫、河瀬直美の息子
今年2月公開の“169分の自主映画”が再上映。徳島の山間を舞台にしたこの力作は、監督の蔦哲一朗(84年生)を始めほぼ20代のスタッフが、武田梨奈・大西信満・田中泯らを迎えて撮り上げた。河瀬直美も出演。これは彼女の『萌の朱雀』以来の劇映画へのオマージュそのもの。時には小川紳介や、オルミの『木靴の樹』さえ連想させる、とは褒めすぎか?
興味深いのは監督自身がジブリを参照例に挙げていること。宮崎・高畑の「手描きアニメ」と本作の「フィルム撮影」は文化的親子、あるいは“おんじと孫”だ。現代人の自然回帰が持つ安易な危うさを批評的に踏まえつつ、“原初に触れる”ことのフィジカルな感動を目指しているのだと思う。